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誰が日本郵便にトール社を紹介したのか

日本郵政の誤算

経営の焦りがM&Aの失敗を招いたという視点ではなく、日本のM&AのFA選択という基本的な課題が存在しているのではないか

◎国民負担となることの責任

 

 日本郵便による豪州の国際物流会社トール社の買収の失敗によって、この3月期決算で日本郵政は民営化後、初の赤字決算となることを公表しました。トール社に係る4003億円の減損処理によるものです。2年前の2015年5月に6200億円で買収したときに、5000億円にも上るのれん代の計上は大きすぎるという指摘がありました。成長性を高く見積もり過ぎた高すぎる買い物だという指摘です。この間、わずか2年です。郵政民営化委員会の議事論を見てもこのトール社ののれん代を本当に償却できるのかとさかんに議論されています。毎年200億円の利益を上げれば20年で元がとれると日本郵政側は盛んに弁明していたのですが、現実はもっと厳しかったようです。
 当時、日本郵政の唯一の大株主である財務省にこの買収案件が提示されたときに、さすがにIPOのエクィティ・ストーリーになるとはいえ、高過ぎるのではないかと懸念を伝えたようです。役所の論理からすればあとは総務省の判断ということで判断を留保しました。”玉”は総務省に渡ったのですが、総務省と日本郵政・郵便との話し合いの藪の中です。

 ドブに捨てた4000億円は誰の負担になるのかという視点をわすれてはいけません。一義的には勿論、日本郵政のロスですが、その大株主の日本政府の資産の劣化ということになります。したがって、間接的には国民の負担ということにもなるわけです。金額は4000億円です。少なくありません。

 

◎弱者連合のFA

 

 では、こんな高値掴みを誰がしたのかというと。いまは病床にある西室泰三元日本郵政社長です。そのような方を鞭うつことは控えますが、ある関係者が「実際には3000億円の価値しかありません。それでもいま買うのですか」と詰め寄ったものの、まったく相手にしなかったことは事実です。もう買収ありき。金額は眼中になかったのでしょう。今回、詰め腹を切らされた日本郵便の当時の社長でこれまで会長であった高橋亨氏です。代表権をとりあげられ、事実上の更迭です。いつものことながら、部下が責任を取るというは日本の常識です。

 ところで日本郵政、あるいは日本郵便の経営者達が本当に豪州の物流会社の経営内容を理解できたのでしょうか。そのカギを握るのはFA(フィナンシャル・アドバイザー)です。
 日本郵便のFAはグレシャム・パートナーズとみずほFG、一方、トール社のFAはラザード。グレシャムは豪州の独立系の小規模の投資銀行。設立は1985年と歴史はありません。一方、ラザードはニューヨークに本拠を世界的な名門投資銀行でPSA・プジョーシトロエンのフランス自動車業界を再編したことでも知られています。年間売上高・粗利は23.4億ドル(2016年)。

 売り手であるラザードは企業価値を高めに釣り上げようとします。一方、グレシャム・みずほは値引きに動きます。この力関係がそもそもフェア、対等なものであったかということです。双方に同じような力があれば、交渉の結果もフェアでしょう。しかし、偏っていたときにはどうなるのか、おのずからその結果は明らかです。
 日本郵政関係者のよりますと「最初に日本郵便に売却の話を持ち込んだのはみずほだった」とのことです。みずほが地元のグレシャムを引き入れたのか、あるいはグレシャムがみずほに協力を要請したのか、はっきりしませんが、はっきりしていることは日本国内ではみずほFGが全面的に日本郵便にトール社のデューデリについて説明をしていたということです。
 FAの選択がそもそもの間違いだったとしか考えられません。日本郵便はラザードをFAにして、トール社にグレシャムを付けさせるべきだったのです。みずほFGはあくまでサブであるべきでした。トール社の経営内容の悪化が想定以上だったと弁明しても意味はありません。最初が間違っていたのです。当時、競合相手も存在しないなかで5000億円もののれん代を認めさせたラザードの狡猾には驚きを禁じえません。実はみずほFGも恩恵を受けているはずです。トール社売却代金が多ければ多いほど買収側FAも収入が多くなるからです。トール社が倒産しようがしまいが、もう無関係です。日本郵便が特別損失を計上しようが、もう後の祭りです。

  6月に日本郵政の株主総会が開かれます。紛糾するでしょう。あるいは国会でこの買収が問題にされるかもしれません。郵政の2次売却が予定されているからです。今年の2次売却には大きな落とし穴があります。それはまた別の機会に。