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籠池森友学園理事長はなぜ嘘をついたのか

森友学園問題は金融の話題ではありません。政府の個人情報操作の一端を表した事件と眺めてみました。

◎黒塗り「のり弁」の下の真実

 

 森友学園への国有地売却問題で学園側が2013年9月に政府側に提出した国有地取得要望書に安倍晋三首相の名前が書いてあったのか国会で大きな論議となっています。5月8日の衆議院予算委員会では財務省が国会に提出した要望書が公表され、その大半が真っ黒に塗りつぶされていました。情報公開法に基づき黒塗りしたとのことです。一方、籠池泰典・前理事長は開設予定の校名として「安倍晋三記念小学校」と記載したことを朝日新聞など複数のメディアの取材に対して認めています。実際、何が書かれてあったのでしょうか。(写真は5月8日の衆議院予算委員会で質問する福島議員))
 ある政府関係者から聞いたのですが、「安倍晋三という名前は書かれていない」とのことでした。また別の関係者からは「あの文書を注意深く読むと安倍晋三と書かれていないことは明白」なのだそうです。要望書にはこの小学校の名前を引用した黒塗り部分が何か所かあるのですが、黒塗りの幅・長さと字詰めとフォントを比較すると籠池氏の主張する名前と字数が違うことがはっきりしているそうです。籠池氏の主張する校名は書かれていないことは明白です。
 なお、情報公開法に基づいて公表する際には、法律にその要件が厳密に示されており、十分に個人情報を保護しようとすれば、あのように真っ黒になります。霞が関では、通称、こうした資料をのり弁と言っているそうです。それだけ情報公開には神経を使っているということになります。

 

◎なぜ、嘘をついたのか

 

 籠池氏はなぜ大嘘をついたのか。学園の経営は民事再生となり、頓挫。加えて、大阪府から補助金返還命令が出る一方、虚偽の申請の悪質性から大阪特捜から詐欺容疑で告訴されるという事態となり、やけっぱちで、最後の最後まで自己PRに動いてのかもしれません。あるいは本当に事実ではなくとも本人は信じ込んでいたのかもしれません。あるいは、時間が経てば、世間はあの安倍総理小学校だと話すようになるという計算があったのかもしれません。教育勅語を教える学校といえは安倍総理小学校というブランドが生き残る可能性があるでしょう。
 では、真実を知っている財務省はなぜ隠したのか。学校の名前なんて公表してもいいようなものです。おそらく、忖度でしょう。安倍総理が「自分が死んだ後に命名されるならいい」と発言してしまっていますから、ご本人も命名に満更ではないことがわかります。情報公開法の趣旨からすれば、そこまで秘匿する項目ではないように思われますが、“いまは”重要事項と判断したのかもしれません。
 しかし、情報公開法は不開示について、不服審査請求を認めています。実際、何件か寄せられているようです。審査委員会の判断次第ですが、学園の経営破たん、籠池氏の逮捕などがあれば、不開示の理由も薄らぎいずれ公表される可能性が高いと思われます。念のため、国会での財務省の答弁は下記の通りです。


 (民進党)「なぜ、不開示なのか」
 (財務省)「学校の運営方針に関わることなので、情報公開法の不開示情報になっている」「籠池氏らからの同意があっても、学園が民事再生手続き中であることを理由に、開示するとしても管財人への確認が必要」
 (民進党)「タイトルがなぜ不開示情報なのか」
 (財務省)「その下に書いてある学校の経営方針と一体となっているため」――

 

 いずれ条件付きの答弁なので環境が変われば公表されるでしょう。それにしてもなにか秘密を隠匿しているのではないかと疑われかねないにもかかわらず、官邸も財務省も名前が違うということを知りながら、不開示にした理由はなぜなのか。
 ➀質問した民進党をコケにして、国会対策での切り札に加える、②国有地払い下げ問題への対応が厳格であるという印象を世間に植え付ける、③安倍総理の関与がなかったことを後でアピールする機会を与える(安倍総理の説明の公正を強調する)、④同時にそのことで安倍総理に恩を売る、⑤会計検査院の検査結果が8月には公表されるので検査院にすべての責任と説明義務を負わせるために何もしない等々、思惑についての推測はいくらでも考えられます。
 国会から要請されて動きだした会計検査院はおそらく国有財産売却手続きについての指摘事項を示すだけで彼らのミッションは終了します。森友問題の幕引きがどうなるか、加計学園問題であらたな内部文書がすっぱ抜かれてやや不透明になりましたが、この秋までにはすべて店じまいでしょう。結局、残ったのは、政治問題を除けば、情報公開制度の厳密さを印象付けたことです。あれだけののり弁ですから。しかし、同時に公権力はあれだけの情報を持っていることを世間に印象付けました。

 

◎右翼対策?

 

 おりしも共謀罪が成立しようとしています。識者に聞けば聞くほど不要、反対との言葉が返ってきます。政府はのり弁だらけの個人情報をさらに集めようとしています。何に使うのでしょうか。金田法務大臣の答弁からはまったく理解できません。ある政府関係者は「テロ対策も共謀罪がなくとも警察・検察は対応できる」と断言します。共謀罪は安倍政権の右翼勢力への「理解」と何らかのバーターを示すものだという説があると聞きました。まさかと思いますが、ありうるかもしれません。

 

(6月8日追記)

 最近、永田町で流れているジョークをひとつ紹介します。

「山口県下関市の「忖度庵」というお蕎麦屋さんで、もりそばとかけそばがメニューから消えたそうです。」

 

(6月15日追記)

 加計学園の獣医学部新設を巡る文部科学省内の「怪文書」ですが、文部科学省内のメールのやり取りに使用されている「共有」という言葉が出てきました。これは霞が関では一般的ではなく、文部科学省固有の表現です。認識の共有、つまり了解を取る手続きです。これは、一人の職員からほかの職員に送付された瞬間に、そのメール内容は「行政文書」となります。したがって、これは情報公開法の対象となります。一般の方でも請求すれば公表されるものです。もちろん、多くは塗りつぶされることになるとはおもいますが。