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日銀の株式売却益の貢献度

日銀が昨年の春から金融機関から買い取った株式を売却しています。この1年間の収支が公表されました。

 

◎日銀決算の株式売却益は2175億円


 日銀が5月29日に平成28年度決算を公表しました。メディアは最終利益にあたる「当期剰余金」が2年ぶりの増益となり、国庫納付金が前年比908億円増加し、4813億円となったことを盛んに強調していました。為替関係が影響して好決算になったと拍手、拍手です。ただし、保有国債の利回りが0.301%と低下しているのが懸念材料だと。しかし、このブログでは少し別の視点から決算を見てみたいと思います。
 日銀は、2002年11月から2004年9月までの間、そして2009年2月から2010年4月までの間に金融機関から大量の保有株式を買入れました。前期は購入枠3兆円(累計買入額2兆180億円)、後期は上限を1兆円(累計買入額3,878億円)として実施しました。累計で2兆4058億円購入しています。これらの株式を2016年3月末までは原則として売却を行わず、2026年3月末までに処分する予定としています。

 購入を開始してから2007年10月から保有株式を売却し始めましたが、リーマンショックを受けて2008年10月に売却停止に追い込まれ、再び、昨年の4月から売却を再開しました。この1年間の運用結果がこの平成28年度決算に初めて計上されたというわけです。

 別表にありますように、2175億円の売却益(運用益)となりました。一昨年の4倍の水準です(日銀は自ら株式を保有すると様々な利益相反が想定されますので、信託としました。したがって、売却益は信託の運用益として計上されています)。

  なお、累計と現在の保有額との差1兆円ほどありますが、2007年10月から2008年10月までの間の売却分と発行会社からの自社株買い入れに応じた分があるためです。ただ、自社株買いについては、継続的に実施していたため、ここ3,4年、年間500億円近い売却益が生じた模様です。

 この1年間の株式売却額(簿価)は1807億円ですので、単純に計算すると120%ほどの利益が乗っていたことになります。それだけ含み益があったということです。まだ、在庫は1兆1884億円ばかり残っています。いまの株価が続けば売り切るまでに1兆円以上の売却益が期待できそうです。

 

◎国庫納付金の半分に相当


 日銀の国庫納付金は4813億円ですから、株式売却の貢献度は実に45%にもなります。つまり、約半分は日銀が金融機関から半ば強制的に買った株式-これは事実ではなく、実際は金融機関が売らざるを得なかった保有株式を買った結果なのですが、売った金融機関側からすれば、あのとき売らなければ自分たちの利益になったのにと考えているはずです。当時は、保有株式を売れば市場が軟化してしまい、売れなかったという事情があります。そのまま売れば市場暴落もあったかもしれません。
 保有株式は金融機関の取引先の株式ですから、取引先企業に迷惑をかけることになります。日銀がそのまま購入してくれれば、市場には出回らないので株価を下げることにはなりません。さらに、国際的な自己資本比率規制をクリアしなければならないという金融機関側の台所事情がありました。株式を保有していることによって、リスク資産が大きくカウントされ、自己資本比率が低下してしまうという事情です。両方とも金融機関の財務の健全性確保ために日銀が“異例”のスタンスで購入したものです。勿論、日銀が利益を上げようとは考えていなかったはずです。
 今にして思えばということになりますが、2002年3月には日経平均が8000円割れを生じたときです。2009年3月にはリーマンショックで7000円割れ寸前まで下落しましたが、その時期に日銀は株式を購入していますので、いわば底値で買い取った形です。簿価は著しく低くなります。個人の株式投資でこれほどうまくいったという話をついぞ聞いたことがありません。数十年投資して、平均数%の年利回りが相場かと思います。決して、日銀を真似できると思われないように・・。
 結果論ですが、金融機関はうべかりし利益が入らなかったことになり、日銀に横取りされた形です。市場というものは荒れたときに買った者が勝ちというパターンがあります。バフェット氏も驚くほどの勘のいい運用だったわけです。もっとも、運用益は国庫に納められました。形を変えた金融機関への税金ともいえましょう。

 ともあれ日銀のシニョレッジである国債運用益が先細りすることがはっきりしているなかで、あと数年、多少なりともこの売却益の貢献度は高そうです。


別表 日銀の株式売却益推移(単位 円)      
決算期 金銭の信託(信託財産株式)単位 円 金銭の信託(信託財産株式)運用益 国庫納付金 国庫納付に対する運用益比
平成24年3月31日 1,428,289,344,745  0  502,608,534,760  
平成25年3月31日 1,378,033,869,914  0  547,222,243,276  
平成26年3月31日 1,372,809,053,507  42,101,856,184  579,394,557,972 0.07 
平成27年3月31日 1,375,754,718,852  49,779,640,597  756,763,295,999 0.07 
平成28年3月31日 1,369,210,615,327  51,147,395,362  390,517,966,139 0.13 
平成29年3月31日 1,188,484,406,613  217,539,086,791  481,351,633,872 0.45 
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