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商工中金の在り方検討会提言の官庁文学的表現の真意

商工中金が利子補給を悪用して不正融資していた事件を受けて、商工中金の在り方検討会が提言を提出した。中身は政府系金融機関として存続するための条件が書いてあるだけで、一部メディアが報じたような完全民営化方針とは程遠い内容となっている。当初からわかっていたとおりのことで驚きもなく、ガス抜きといってよいかもしれない。ただし、今後の商工中金のビジネスモデルの構築次第では、地域金融機関の再編にも活用される可能性がある。

◎提言の本意と結論

 

 商工中金の不正融資事件を受けて「商工中金の在り方検討会」が1月11日に提言(中間とりまとめ)を公表しました。検討会の検討を公表していたため、一部委員、とりわけ冨山和彦氏(経営共創基盤代表)の完全民営化の主張がメディアにあふれ、さも民営化ありきの検討になったと思っている方が多いかと思いますが、結論から言えば、完全民営化はないとこの報告書には書いてあります。

 この提言は全体を通して政府系金融機関としてどうあるべきかという建付けで、政府系金融機関として存続するためにはどのような工夫が必要かという文脈になっています。そもそも出発点と前提がこうした内容になっているのですから、民営化という結論はないのです。「完全民営化」については、提言の最後にわずかに言及しており、目指すべきビジネスモデルが確立されたかどうかの検証と(政府系金融機関として)経済・金融危機時の対応を検証したうえで、4年後に「完全民営化の実行への移行を判断する」としています。

 4年後に判断するという表現は、4年後に政府系金融機関として存続を認めると読むのが正しい読み方です。これが官庁用語です。商工中金がどのような姿になるべきかという具体的なビジョンが示されていない以上(大枠は示されていますが)、結論は存続なのです。しかも、これまでも商工中金の民営化は何度となく提言され、議論されましたが、すべて結論は先送りです。民営化は言い尽くされており、いまさら何をという感じすらあります。4年後にはなんらかの条件が付くかもしれませんが、政府系金融機関としての在り方を検討している以上、民営化は実現しません。

 冨山氏の発言は民営化によって、仕事がトリクルダウンすることを期待したのではないでしょうか。現に冨山氏の会社は例えば、政府の地方創生関連で多額の下請け仕事を受けています。これまでのキャリアを活かした、あるいはアピールした結果なのでしょうが、事業再生やM&Aなどはお手の物のはずですから、商工中金の民営化の受け皿として真っ先に手を挙げるつもりではないかと思われます。完全民営化が遠のいたとしても、新生・商工中金は冨山氏が活躍するような場を提供するのは間違いないところでしょう。そのこと自体を批判するつもりは毛頭ありませんが、懸念するのは、この検討会の委員となっていることです。ある意味、利益相反が生じます。委員としての適正を欠きます(スミマセン、本旨がずれてしまいました)。

 なお、民間金融機関は商工中金の民営化、あるいは新しいビジネスモデルへの転換についてどう見ているのでしょうか。民営化についての結論は、これまた反対です。民間金融機関は使いたがっているのです。商工中金を活用しているのは、商工中金の貸出先企業だけでなく、民間金融機関も信用リスクの分散のために使っているのです。それにこのまま民営化されると資産10兆円の横浜銀行クラスの全国展開地銀が登場してしまいます。競争が激化するおそれ十分です。そんな事態は避けたいと考えるのは当然です。ゆうちょ銀行の民営化と少し似た構図になります。

 

◎金融庁の方針に沿ったビジネスモデル

 

 提言のなかで気になる表現があります。おそらく金融庁が押し込んだ文言ではないかと思われますが(未確認です)、現在の金融行政方針とそっくりの表現が盛り込まれているのです。少し、長い引用で恐縮です。

 

「各地域には、生産性が低く、経営改善、事業再生や事業承継等を必要としている中小企業やリスクの高い事業に乗り出そうとしているがうまく進められない中小企業が多数存在する中、現状では、地域金融機関はこうした企業の生産性向上等に十分に対応できていない。」「商工中金は、地域金融機関と信頼関係に基づき連携・協業しながら、上記のような中小企業に対する支援に重点的に取り組んで当該企業の生産性向上や地方創生に貢献・・すべき。その手法は以下の2つに大別される。(1)担保や経営者の個人保証などに頼らない事業性評価、事業承継等を含めた課題解決型提案やきめ細かな経営改善支援といった銀行本来の機能の強化、(2)困難な状況に直面するも地域にとってかけがえのない存在である中小企業の抜本的な事業再生、資本性ローン等のメザニンファイナンス、M&A等の先進的取組み」

 

 要約すれば、地域金融機関は経営改善・事業再生などに十分対応できていないので、商工中金は地域金融機関とタイアップして事業性評価をしっかり行い、課題解決の提案に取り組むべきだと。つまり、商工中金に地銀の足らず米を納めてほしいというわけです。こうしたタイアップの強化は最終的に再編という形に結びつく可能性があります。

 地域金融機関とりわけ地方銀行の収益状況は極めて厳しい状況にあります。金融庁は取引先の再生こそ、地域金融機関の生き残る道と強調していますが、それも限界と判断すれば、経営者は再編による生き残りに賭けます。しかし、メガバンクからは資本関係の解消に見られるように完全に見切りを付けられています。地銀同士、あるいは第2地銀を引き受ける地銀も少なくなっているように見えます。となるとホワイトナイトは存在しません。ならば、商工中金との統合という選択肢もありうるかもしれません。ゆうちょ銀行は完全民営化しない限り、統合の相手足りえません。その見通しがまったく立っていない以上、商工中金はその人的レベル、資本力を考えれば、十分、引き取る力があるように思えます。

 長崎県の地銀同士の統合に公取がストップをかけました。これを解くために特別措置法が検討されていますが、意外なところにホワイトナイトがいるのかもしれません。