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岩田日銀副総裁、最後の講演

日銀の岩田規久男副総裁が1月31日の大分県での講演のあとの記者会見で「コミュニケーションは本当はもっと深くしなくてはいけません。投資家がヘッドラインだけで見て判断するというコミュニケーションでは困ってしまいますので、何をどうするかは日銀も随分考えてはいますが、こうした真意を伝えることの難しさを、この 5 年間で痛感しています」と総括した。自らのリフレ理論の不十分さを弁明するような形だった。2年間でCPIを2%上昇させるとし、達成できないときは辞任することを示唆したにも拘わらず、最後の記者会見では消費税増税と原油価格の下落によって、達成できなかったと語った。この記者会見の記録はそのまま永続的に残ることになるが、副総裁の弁明が本当に正しいものであったのだろうか。

 

◎副総裁就任直前の講演との比較

 

 2013年3月20日に岩田規久男学習院大学教授が日銀副総裁に就任しましたが、岩田氏はその直前に「アベノミクスによる経済再生」と題して講演しました。当時の岩田氏のこぶしを振り上げたような、アジテーションのような講演の一部を掲載します。まず、一番上のフリップをご覧下さい。

 

 31日の記者会見では、「リフレ派の理論的支柱だったと思うのですが、岩田さんデフレは貨幣現象であると、マネタリーベースを増やせば予想インフレ率が上がるのだということで、かなり多くの方が量を増やせばインフレは上がると信じたと思うのですが、今日のお話を聞いていると、やはりそれだけでは駄目だったというような話にも聞こえるのですが」という質問に

 

「 今おっしゃったような理解があるということが、私の真意が実は伝わっていない証拠です。マネタリーベースさえ増やせばデフレ脱却ができるとは、私の本を全部読んでもらうと書いていません。」と答えています。

 

 しかし、副総裁就任直前の講演では、マネタリーベースを増やせば、予想インフレ率は上がると話されています。いくら岩田副総裁が真意が伝わっていないと言っても、こうした講演を聞いた市場関係者は、記者の認識のほうが正しいと思います。

 

 

◎貨幣的現象と主張

 

 しかも、真ん中のフリップをご覧ください。貨幣数量説という学説がありますが、それによればデフレは貨幣的現象とされています。その学説が「デフレは貨幣的現象ではない」と批判されたのです。その批判に対して、岩田氏は下記のように「それは誤解だ」と答えています。つまり、貨幣的現象だという説明です。だからこそ、量的緩和を主張したわけです。

 

 ついでにもう一点(一番下です)。マーケットが注視しているのは、マネタリーベースの変化とその方向と話されています。

  再度書きますが、この講演は、副総裁就任直前のものです。明らかに記者たちの質問の内容が正しいと思います。

 

 5年前のことをいまさら掘り返すなという常識的な考えもあるかと思います。しかし、金融政策の歴史を語るときに、事実は残しておくべきです。間違いなく岩田氏は市場へのメッセージとしてマネタリーベースの拡大がインフレ予想率を引き上げるとおっしゃっています。

 この講演の凄いところは、人々がデフレを予想するからデフレになるのだから、インフレ予想にすれば、インフレになると主張していることです。当たり前のことです。こんなトートロジー、答えをもって問うような論理は滅茶苦茶と言わざるを得ません。岩田氏は副総裁の任期をまっとうされた後、おそらく学者に戻られると思います。当事者ではなくなったときに、再度、十分な説明をされると思います。なぜ、QQEは効かなかったのか。

 

 ある記者はこう質問しています。

「レジームチェンジ、レジームが壊れているという話ですが、レジー ムチェンジのために何が必要か」

 これに対して、「レジームチェンジをどうしたらいいかは、なかなか難しいと思います。日銀の本当の真意を伝えることは、将来できると思いますが、具体的にどの様にすればよいかは、本日ちょっとお話はできません。」と。

 本日できないとは副総裁としては答えかねるということだと思います。なぜ、レジームチェンジが壊れたのか、第3者の立場からの指摘に期待したいと思います。