政治的混乱と経済的な大混乱が続く南米ベネズエラ。政府は3月22日、ハイパーインフレに対応するため、通貨ボリバルを1000分の1に切り下げるデノミを6月4日に実施すると発表した(1000ボリバルを1ボリバル・ソベラノとして流通させる)。世界最大の埋蔵量を誇る石油資源がありながら放漫財政運営と強権的な独裁政治が相まって、価格統制経済が崩壊、生産・投資が停滞。インフレ加速、生活基礎物質が欠乏し、隣国への難民、流出が止まらない状況が続いている。すでに金融政策も機能せず、通貨の切り下げによっても通貨が流通する見込みがない。外貨の借入も不可能で打つ手なし。ほんの数年前にほころび始めた財政破綻のこの惨状は、日本においても頭の片隅に置くべき他山の石だ。
◎この10年間で100万倍のデノミ
ベネズエラは2008年に1000分の1のデノミを実施しており、わずか10年の間に再度、1000分の1のデノミを実施しなくてはならないほどインフレが進んでいます。10年間で100万分の1に通貨を切り下げるのですから、尋常なことではありません。財政ファンナンスが続き、供給不足が続くようであれば、ジンバブエのような天文学的なハイパーインフレになる可能性があります。
経済混乱が続いている国では経済統計が存在しません。中央銀行が調査しているものの、もはや信頼に足る統計作業ができなくなっているとのことです。したがって、ベネズエラ経済のマクロ統計はIMFの推計等に基づくものしかありません。
まず、物価ですが、2016年が303%、2017年が1133%。IMFは2018年は2530%となると予測していましたが、先日の日経新聞(3月23日)の記事によれば、現在のインフレ率は「2月時点でインフレ率は年率6000%を超え、年内に13万%を超える見込み」と報道されていました。インフレによって貨幣の供給が追い付かない状況です。完全に貨幣経済が崩壊しています。
もはやモノを通貨で払って買うという行為が成立しません。超輸入インフレが起こっていますので、生活用品がまったくなく、配給品に頼るしかないとのことです。ある専門家の方によると、「学校の先生が国営スーパーの買い出しにいって授業ができない」といったことも起こっているとのことです。勿論、薬もなく、病院でも医療行為ができません。石油産業に従事する富裕層や軍関係者などの富裕層はともかく、貧困層は生きていけませんので、難民化します。
紙で紙幣を印刷するコストのほうが高くなる可能性すらあります。あとで述べますが、石油を担保にしたICO(仮想通貨による資金調達)を実施しましたが、もはや紙では対応できないほど差し迫っているということの表れといえるでしょう。
GDPも不明です。2014年にマイナス成長となり、2016年の推計値はマイナス16.5%、17年はマイナス12%。今年もマイナス6%と推測されています。勿論、失業率といった統計はまったく存在しません。
為替相場については、公定レートは1ドル=3345ボリバルですが、今年1月時点での実勢レートは1ドル=250000ボリバルです。約75分の1程度です。インフレが高進していますので、いまの実勢レート、闇ドル相場はさらに高くなっていることと思われます。
◎国債デフォルトの可能性が高まる
ベネズエラの対外債務は1000億ドルですが、国債と国営石油公社の債券で占められています。これに対して現時点での外貨準備はわずか94億ドルです。利払いの原資が底をつきかけています。現に、昨年、11月までの2か月間に11億ドルの元利払いが不能となりました(正確に言いますと、不能となったらしい)。支払停止は受け取り人から公表されませんので、支払側、つまり政府側の公表がないため、確認ができなのですが、市場ではそうなっています。支払期限を過ぎても通常1か月程度の猶予が認められています。また、リスケ交渉されている可能性もありますので、直ちにデフォルトとはされていませんが、早晩、デフォルト、モラトリアム宣言する可能性が極めて高いと思われます。
外債の大半はアメリカの投資家(多くはヘッジファンド)が保有しています。それがセカンダリー市場を形成しています。そのほかはいわゆる2国間の借款です。最大の借入先は中国です。ある調査によると累計で600億ドルとなっていますが、ネットの残高は不明です。すくなくとも100億ドル程度は残っているようです(朝日新聞の2月24日に記事によれば1200億ドルとなっていましたが、事実誤認かと思います)。
この支払いは実はバーター。石油で支払っています。中国はこの石油を本国に送らず、第3国に転売している模様です。中国が一体いくらのレートで石油を受け取っているのか、まったくわかりませんが、足元を見られ、相当値切られていることが想像されます。買い叩いていると思います。そして転売で利ザヤをとっているはずです。
次の大口先はロシアです。ロシアの国営石油公社は昨年8月に60億ドルをベネズエラの石油公社に融資しました。また、10月には30億ドルの国債のリスケについて承認しています。ロシア依存が強くなっているようです。
しかし、依然として資金繰りは厳しく、アメリカの調査機関の試算によりますと今年の1月時点で、既に支払期限が到達している国債残高は約14億ドルとなっています。今年の4月と8月にそれぞれ15億ドル前後の支払い期日が到来しますので、このあたりでデフォルトとなるかもしれません。
◎仮想通貨ペトロ
ベネズエラで最近、話題となっているのが、ペトロという仮想通貨を政府が発行したことです。1ペトロに1バレルの原油が担保されています。この仮想通貨を1億ペトロ発行しました。3月20日までにそのうちの4割を発行し、6割は逐次発行していくという計画です。4割発行しても引き受け手が国内の公的機関しかなかったため、これまた事実上のマネーファイナンスとなっています。誰も買わないので実際には公的機関間の決済に用いられているようです。
日本の仮想通貨関連のウェブサイトでこの仮想通貨を売ると買うとかといった宣伝が掲載されていますが、実際に購入できるのか不明です。しかも、この石油担保の保全システムが不透明なのです。実際にどうやって清算できるのか、わかりません。そもそも国債のデフォルトが近づいている可能性が高いなかで、この仮想通貨がどのような扱いになるのか、まったく予断を許しません。仮想通貨業者の方々には投資家に丁寧な説明が求められると思います。
余談ですが、この仮想通貨発行のアイディアは、日本人によって提案されたとのことです。ベネズエラ中央銀行の講演会でプレゼンしたところ、興味をもったという話しです。いま、ロシアが関与しているとか、いないとか記事になっていますが、“主犯”は日本人(あるいは日系人)です。
ベネズエラ社会を語るとき、本来はチャベス前大統領、そしてマドゥロ大統領の強権政治に触れるべきでしょうが、一切、省略しました。
最後に石油関係の動向について触れておきたいと思います。ベネズエラは2011年までは極めて経済が順調な国でした。それが躓いたのは2014年の石油価格の下落です。ベネズエラは1バレル=100ドルで国家予算を作っていました。それが半値以下に下落したものですから、財政は一気に2倍に水膨れすることになりました。一時的ならいいのでしょうが、いまだに石油は60ドルです。この石油ショックと強制的な外資系石油関連業者の国外追放によって、石油関連産業技術者が1万人以上も海外に流出しました(技術者がいないため石油関連施設の老朽化と火災が頻発しています)。これにより、石油生産も半減しました。
価格が半分、生産が半分になったのですから、単純に計算しただけでも、国家の収入は4分の1以下になります。いかにダメージが大きいかがわかります。
振り返って、日本も似たような事情があります。そうです。物価です。日銀は2014年の石油価格の下落を原因として物価が想定した水準、2%に到達しなかったと説明しています。そのイクスキューズの是非はともかく、現在の日本の物価は0.9%ですが、原油の価格上昇分を差し引くとほぼゼロになります。ベネズエラと同様に日銀も早く1バレル100ドルにならないかと考えているのではないでしょうか。
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