· 

トランプ政権下の野党スタッフと太田財務省理財局長

トランプ大統領が日常的に政府の高官の首のすげ替えを行っているが、行政執行は大丈夫なのか。すでに高官の離職率は49%に達している。また、いまだに任命されていないポリティカルアポインティが多く、このため野党・民主党時代のスタッフがそのまま仕事をこなしている。居心地は悪いという。日本でも太田理財局長が民主党の野田総理秘書官だったことから、そのことで罵倒されるという事件が起こった。政治的に中立である行政官の在り方について考えさせられる一場面だった。

◎パパブッシュの部下が応援に駆け付ける

 

 トランプ政権の連邦政府やホワイトハウス内のいわゆる政府高官の離職率がすでに49%になったとの調査がありました(ブルッキングス研究所3月16日レポート)。政権発足して1年以内に離職した高官は34%、現在は2年目ですが、すでに15%が離職しています。勿論、その後任の人事も発令されているのですが、離職率の高さは歴代大統領のそれを上回ることは確実な情勢です。ちなみにオバマ大統領は、1年=9%、2年=15%、3年=43%、4年=4%となっています。3年目に大量に離職していますが、おそらく議会との調整不調が影響したのではないかと思われます。レーガン大統領は最終的に78%の高官が離職しています。

 問題は、こんな高い離職率のなかで行政執行が可能なのかということです。ほかの国のことで心配しても仕方のないことですが、アメリカの政権の運営の不安定は世界の不安定につながるので、ああ、そうですかと見過ごすわけにもいかないでしょう。

 政府高官を日本の制度(霞が関)に当てはめると、次官、長官、局長クラスに該当します。離職率の高さと同時にこれらのポリティカルアポインティとなっているポストが埋まっていないことも不安定要因です。日頃、アメリカ政府と折衝している霞が関関係者に聞きますと、日本の外務省に相当する国務省で6割、財務省で2割の欠員があるそうです。トランプ政権が発足してもう1年と4か月になります。よくも運営ができているものだと感心します。日本では、事務次官も局長も不在では行政なんかできません。

 なぜ、任命しないのか、不思議ですが、打診、推薦しても当人の了解が得られないそうです。トランプ政権は事実上、あと2年半の政権です。この2年半を働くことによって、次の職場探しが不利になると考えているからとのことです。トランプの色がつくことを警戒しているわけです。

 国務省にくらべ財務省の欠員がすくないのは、意外にもトランプ支持のOB職員の応募があるためのようです。いつのOBかというとパパブッシュが副大統領のときのスタッフ。当時、40歳であれば、もう70歳代にもなろうかという人々です。パパブッシュのもとを離れ、それぞれの分野で活躍して、最後にお国のためにひと働きということでしょうか。日本でもご意見番のようなOBがいらっしゃいますが、そうした方が現役に復帰しているのです。現役復帰した戦艦ミズーリのようなものでしょうか(スイマセン、少し古すぎました)。

 ついでに、国防総省はまったく関係なく、仕事を継続しているようで、トランプだから人事を代えるということにはなっていません。その最大の理由は、ウエストポイント(陸軍士官学校)とアナポリス(海軍士官学校)でスーパー・エリートを養成しているからです。ハーバードに行くほどの資金の余裕がない学生、つまり貧乏だが、非常に優秀という学生がここに集まっています。「彼らにはトランプも手が出ない」とこれまた別の官僚から伺ったことがあります。日本の防衛大学とはだいぶ、社会からの評価は違うようです。「日本も東大にいくか防衛大学にいくか迷うほどのレベルに防衛大学を引き上げないと、政治家からの関与を受けやすくなる」と。この意見に賛成しているわけではないのですが、シビリアンコントロールといっても受け取る現場のほうのレベルが低ければ、機能はしないとは思います。

 

◎会議録削除はナンセンス

 

 さて、アメリカの連邦政府の局長が不在ということは、つまりオバマ政権時代の審議官クラスが責任をもって引き続き実働しているということになります。ご存知のように、従来の大統領交代のときは、一斉にすべてにポリティカルアポインティが入れ替わり、その部下たちも自動的に入れ替わりました。民主党と共和党ではやはり基本的な考え方が違うこと、それぞれに強力なシンクタンクがあり、人材供給に事欠かないという背景があったわけですが、今回は共和党からのサポートもないこともあり、そのまま居残っている幹部が多いのです。これまた、別のある関係者に聞いたところ、「なんとなく静かに仕事をしている」とのことでした。やはり居心地はあまりよくないようです。

 この居心地の悪さが、日本で表面化しました。先日、参議院予算委員会(3月19日)で森友学園が審議されていたときのこと、自民党の和田政宗議員が答弁に立っていた太田充理財局長に対して、太田氏が民主党政権時代に野田総理秘書官だったことに触れ、「(財務省は)増税派だから、安倍政権をおとしめるために、意図的に変な答弁をしているのではないか」と太田局長を罵倒する発言をしました。これに対し、太田局長は顔を真っ赤にして何度も首を振りつつ、「私は公務員として一生懸命お仕えするのが仕事なので、そんなつもりは全くない。それはいくら何でも、いくら何でもご容赦ください」と語気を強めて否定の答弁をしました。局長は議員に反論できませんので、「それはいくら何でも、いくら何でもご容赦ください」は精いっぱいの抵抗だったと思います。一種の感動を覚えました。茶化すつもりはありませんが、歌舞伎の一場面を彷彿とさせるシーンでした。

 この発言は国会、与野党から不適切との批判を浴びて、翌日3月20日の予算委員会で和田議員の了承を受けて、会議録から削除されることが決まりました。

 この削除はまったくのナンセンスです。歴史は残しておかなければなりません。会議録とはそうした精神で作成されているはずです。あとで削れば問題はなかったことになるというのでは、無責任な発言が横行します。後日、「大変失礼な質問を行ったので申し訳ない」とむしろ追加すべきだったと思います。この日の会議録はいまだに公表されていません。すでに翌日以降の委員会の会議録が公表されているにも関わらずです。削除作業が相当難航しているのでしょう。

 一方、会議録官報は削除されても国会中継がビデオで残されています。この発言の部分は、3月19日参議院予算委員会の中継開始から1時間3分56秒から見ることができます。刑事事件の取り調べが問題となり、可視化が進んでいます。ある事件では被告の態度をみて裁判員の心証がきまったという事件がありました。映像は文字よりも数段情報量があります。文字で残すことは当然、意味がありますが、映像で残すことも重要になっています。官報掲載会議録が正式なものかもしれませんが、真実はビデオに残されています。こちらも正式な記録とすべきと考えます。

 なお、参議院規則第156条は「会議録には、速記法によつて、すべての議事を記載しなければならない。」、また、第158条は「発言した議員は、会議録配付の日の翌日の午後五時までに発言の訂正を求めることができる。但し、訂正は字句に限るものとし、発言の趣旨を変更することができない。」となっております。

 

(追記:4月18日)

昨日、下記のような記事がありました。シビリアンコントロールが機能していないのではないかという懸念です。防衛省の制服組幹部が国会議員を恫喝したという事件です。由々しき事態です。拡大解釈すれば、2・26事件となります。よくよく考えてみて下さい。自衛官、それも昔でいえば少佐が、恫喝したのです。このコラムでアメリカの制服組のレベルの高さについて書きましたが、彼我のレベルの違いは歴然としているように思います。少し前のことですが、個人的に防衛大学卒の防衛省制服組のトップの方といろいろと雑談したことがありますが、極めて優秀で立派な方です。この方と恫喝した3佐とは雲泥の違いです。この3佐がすべてとはまったく思いませんが、一穴であることは事実です。これは個人的な感想ですが、防衛大臣(あるいは首相)が巨大な軍隊を完全にコントロールできるというのは、幻想かと思っています。イラク日報問題で防衛大臣がコケにされたという事実もアンコントロールを象徴しています。

 

(以下:引用記事)

「国民の敵だ」3等空佐、路上で小西議員に暴言
2018年04月17日 19時40分(読売新聞オンライン)


 防衛省は17日、統合幕僚監部指揮通信システム部の30代の男性3等空佐が16日午後9時頃、参院議員会館(東京都千代田区)前の路上で、民進党の小西洋之参院議員に暴言を繰り返したと明らかにした。

 同省は、自衛隊法(品位を保つ義務など)違反の疑いがあるとみて、処分を検討している。

 同省によると、3等空佐は帰宅後にランニングをしていた際、小西氏を見かけ、小西氏の話では、「お前は国民の敵だ」などと発言したという。小西氏は、自衛隊の日報を巡る問題を追及しており、今月5日の参院外交防衛委員会では「安倍内閣の総辞職、大臣も即刻辞職するべきだ」と述べていた。

 河野克俊統合幕僚長は17日、小西氏の議員会館の事務所を訪ねて謝罪。報道陣に「国民の代表である国会議員に、暴言と受け止められる発言をしたことは極めて遺憾」と話した。