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金融再編の「競争のあり方」の検討の場とはどこか

金融庁が4月11日に公表した「金融仲介の改善に向けた検討会議」(有識者会議)の「地域金融の課題と競争のあり方」報告書の中身は、長崎県の地銀統合、地域金融機関の競争のあり方についての提言であったが、報告書は最後に一歩踏み込み、地域のおける全産業にわたる競争政策のあり方についての提言も付け加えた。この報告書を受けて菅官房長官が4月12日の記者会見で「人口減少下の地域金融の在り方について政府全体で議論する必要がある」とコメントしたのは、もちろん前者の地域金融の競争のあり方についてであった。

 しかし、このコメントを受けて作成された今年度の政府の成長政略である未来投資会議の「未来投資戦略2018(6月15日)」では、「金融」の概念が一切取り払われ、「地域等での企業の経営力の強化、公正かつ自由な競争環境の確保、一般利用者の利益の向上等を図る観点から、競争の在り方について、政府全体として検討を進め、本年度中に結論を得る。」とされ、金融庁の後段の提言について検討するという方針が明らかにされた。テーマは金融再編から競争政策へと転換された。ではその検討の場はどこか。その着地点を考える。

 

◎金融再編のテーマを超えた結論を付記

 

 金融庁の有識者会議の報告書は本文27ページ。その大半の26ページまでが地銀の再編のあり方についての分析と提言で構成され、その結論は、「このまま競争を続け、経営体力を消耗させ、金融機関数が減少し、自然に独占状態が発生する状態になるより、経営余力のあるうちに統合を認め、その経営余力を用いて地域企業の本業支援等を行うことを通じて、生産性向上や付加価値向上を図ることの方が、地域企業・経済の観点から望ましい。」としています。

 

 しかし、この結論には最後に1ページ分の“付録”があります。「さらに、金融に限らず他の産業についても、地域において人口減少など需要の構造的な減少に直面する中、地域の住民・企業にとってのインフラ的なサービスの確保が重要な課題となってきている。また、時代と共に産業構造が変化する中で、商品サービスの安価な提供に止まらず、イノベーションの促進や付加価値の向上に資する観点からも競争のあり方を考える必要がある。

 しかし、経済の成長局面で確立されてきたこれまでの枠組みの下で、競争当局がいわば執行機関として、現行法を適用するだけでは、人口減少下における地域のインフラ確保や、経済産業構造の変化に適切に応えることが難しくなってきている。このため、日本経済の変化を踏まえた総合的な競争政策のあり方を政府全体として議論・検討する必要があると考えられる。」と総合的な競争政策のあり方を政府で検討すべきだと提言しているのです。

 

 有識者会議は総合的な競争政策のあり方を検討していたわけではなく、この部分の提言はいかにも唐突です。有識者会議(金融仲介の改善に向けた検討会議)は、金融庁長官の事実上の私的諮問機関の色彩の濃い会議ですが、それでも公式な会議であり、その内容は金融庁の公式の方針という位置づけとなります。ただし、「総合的な競争政策」を検討するためにこの有識者会議が設けられたわけではありません。

 

 会議の設立趣旨は、「融資先企業へのヒアリングや金融機関へのモニタリング等を通じて得られた事実を踏まえ、以下のような金融仲介のあるべき姿等についてご議論頂く。

 ○企業・産業の生産性向上や新陳代謝の促進への貢献

 ○金融機関における担保・保証依存の融資姿勢からの転換」というものです。

 文字通り、金融仲介の改善がメインテーマであり、企業アンケート調査などから得られた銀行と企業との認識ギャップの分析や金融仲介の目詰まり解消に向けたベンチマークの作成などを扱ってきました。失礼ながらメンバーもとくに競争政策のプロを招集したわけではありません。会議は昨年の春に一応の成果を出したあと休会状態となっていました。

 

 それが突然として、テーマとして地銀再編を取り上げたという経緯があります。百歩譲って、金融再編への知見ということであれば、それぞれ専門家の方々ですので、一家言をお持ちのことと思います。しかし、日本全体の競争政策という大テーマについてまで諮問されたわけではありません。

 にも拘わらず総合的な競争政策への提言となったわけですから、この最後の1ページは極めて高度な政治的な配慮の結果であったと想像できます。

 

◎渡りに舟の提言、政府の成長戦略へと格上げか

 

 成長戦略を担当するある内閣府の高官は「渡りに舟だった」と語っています。アベノミクスという言葉が世間から消えて久しくなりました。安倍総理の今年の年頭の施政方針演説でもアベノミクスという言葉はたった一回しか出てきません。3本の矢をバージョンアップした新・3本の矢の評判も芳しくありません。名目GDP600兆円とか希望出生率1.8%という威勢の良い目標を掲げていますが、その具体的な手段、方法論が見えないからです。

 

 そこで、来年の参院選を控え、政府は安倍総理の秋の総裁3選後の新たなキャッチフレーズが必要になっています。そこに恰好のテーマとして「総合的な競争政策」が挙がってきたというわけです。金融再編は政府の競争政策へと格上げされ、来年の成長戦略の大目玉となる可能性が出てきました。

 

 今年の規制改革会議の答申でもそうなのですが、ろくな緩和策が打ち出せませんでした。岩盤規制があるからです。岩盤規制のなかでも暗黙の最大級のテーマのひとつが独禁法です。これまでも規制改革会議に公取が出席し、ルールが緩和されたケースもあります。しかし、公取と独禁法の存在を共有している霞が関からは、独禁政策の緩和を求める声は出てきていません。

 

 しかし、独禁法の運用を緩和することによって成長戦略が進む可能性があります。政府のサンドボックス戦略などもその一例でしょう。ただ、霞が関では公取と衝突して、政策が思うに任せない状況にあるのも事実です。いま、人口減少が続き、事業の継続が難しくなっている地方交通機関、医療介護施設、ガソリンスタンドなどインフラ系の維持が大問題になっています。なにも人口減少でビジネスモデルの維持が困難になっているのは、銀行だけではないのです。

 

◎経産省主導の論議に?

 

 未来投資会議の成長戦略に書き込まれていますので、未来投資会議が最終的なとりまとめの場となる可能性があります。しかし、これは形式的な、というか儀式ということでしょう。まずは、検討の場とその場を構成する人員を集めなければなりません。公取のなかで議論することは不可です。行政の執行機関ですから、大枠を自ら議論することはできません。国税庁が税制改正を主導することができないという構図と同じです。

 

 未来投資会議は内閣官房の日本経済再生本部に事務局を置いています。競争政策についての担当セクションはないので、特定の作業部会(組織はまったくの未定です。規制改革会議に置かれるかもしれません。)を作ることと思われます。すでに今年の定期異動に伴い内閣官房の人事が行われつつあります。作業部会に充てられる人選も進んでいると聞いております。中立性を保つことから、事務方のトップ(形式上はもっと偉い人になるはずです)は内閣府プロパーの参事官が充てられる模様です。加えて、公取から初めて出向者が出てくるようです。経産省はもちろん、地方インフラに関連する各省庁から担当者が集められます。未来投資会議は経産省の別働部隊といっても過言ではありません。経産省の本気度次第で人員を相当投入する可能性があります。なお、金融庁は「自分の手を離れた」としており、人をだすかどうか不透明です。

 

 政府が部会、作業部会を設置するときは、ほとんどの場合、結論が先にあります。結論から部会を作るといったほうが正確かもしれません。ただし、地方創生、一億総活躍などは、キャッチフレーズが先行して、当初の思惑と比べ果実が少ないということもありますので、結論があるのかどうか、まだ、なんとも言えません。そもそも公取との議論も始まっていない状況で結論もなにもないといったほうが正確でしょう。

 

 しかし、経産省が受け皿を作る可能性があります。グローバルベンチマークを策定して大手企業の産業再編、設備の統廃合(石油精製、石油化学、電炉、板ガラスなど)を主導してきた「産業競争力強化法」を起案したのは経産省です。すでに実績を積み上げています。国内シェアをグローバルベースに置き換え、公取を巻き込んで作った法律です。経済産業大臣は特定の企業に対して調査する権限を有しています。消耗戦を避ける仲介に入るわけです。過剰設備の廃棄だけでなく、企業統合まで促すという結果を引き出しています。

 

 このグローバルベンチマークの議論の後、“ローカル・アベノミクス”というスローガンのもと、ローカルベンチマークが議論されました。地方創生など様々な施策が生み出されましたが、そのなかに地方中核企業の再建というテーマも入っています。地方経済の集積を図るという意図があります。その際に使用され、強調されたキーワードは新陳代謝の促進です。大企業の新陳代謝の促進、そして地域の企業の新陳代謝の促進(再編)です。スクラップアップビルドです。経産省はこれを狙っています。この地方の中核企業(インフラ企業)を地銀に置き換えれば構図は明確になります。

 

 産業競争力強化法の改正でいくのか、独禁法のガイドラインの改正に向かうのか、はたまた、まったく新しい法律を作るのかわかりません。しかも、公取との相打ちで方向感を失う可能性もあり、予断を許しません。

 

 「ローカル路線バスの旅」という人気テレビ番組があります。もう10年近く放送されていますが、放送回を追うごとに路線バスがつながらず、タレントが10キロ以上も歩いてほかのバス会社のバス停を目指すという場面が増えました。地方のインフラは急速に劣化しています。

 地域交通会社に勤めていた友人に尋ねたところ、「地域住民は必要ならいくらコストがかかろうが乗るしかないと考えている」と答えていました。「人口減少でバス会社がなくなるよりも、独占でもいい。とにかく維持が重要。全県1社でもいいのではないか」と。地域交通は路線バスを維持する費用を捻出するために、首都圏なり大都市との高速バスを運行しています。地域経済が縮小するなかで、大都市とのパイプによって延命しているわけです。この構図は銀行にも当てはまります。