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公取の長崎県・地銀統合承認の懸念材料

公正取引委員会は8月24日、傘下に長崎県の親和銀行を有するふくおかフィナンシャルグループ(FFG)と十八銀行の経営統合について、排除命令を出さないことを両社に通知し、事実上、了承した。両社の多額の中小企業向け貸出の債権譲渡等を条件とするもので、高いコストを払うことになる統合となった。

◎債権譲渡をどう評価すべきなのか

 

 今回、統合を認めてもらうためにFFGと十八銀行が県内シェアを下げるために行う貸出債権譲渡額は1000億円という約束を公取と交わしたことになります。長崎県内の両社の中小企業向け貸出は1.3兆円ですので、8%ほど貸出を削減することになります。利ザヤの取れる中企業向け貸出を減らさざるを得ないのは、経営的にもかなり厳しい条件といえます。

 

 十八銀行側はもっと深刻です。1000億円の両社の配分は明らかになっていませんが、すくなくとも十八銀行側は半分以上負担するはずです。事実上の吸収合併(2020年4月に合併予定)ですので、十八銀行側の削減額(譲渡額)のノルマはもっと多いかもしれません。十八銀行の長崎県内の事業性貸出(平残。18年3月末。このうち中小企業向けの金額は不明)は5100億円程度。仮に半分の500億円だとしても貸出を10%減らすことになります。ただでさえ、中小企業向け貸出が伸び悩んでいる(総貸出比はこの1年間で5%もダウンしています)なかで、一気に10%以上も減らすというのは、身を切られるような思いでしょう。公取のハードルは極めて厳しいものでした。

 

 譲渡される貸出の品質、つまり正常債権なのか、不良債権なのかというと、譲受する側にしてみれば、不良債権を引き受ける理由はありません。正常債権でなければなりません。これは買う側の金融機関にとっても背任、不利益行為につながりかねませんので、絶対の条件でしょう。となると、譲渡側の両社にとっては、良い正常債権を失うことですので、単に額が多いということだけでなく、さらに厳しいということかと思われます。それでも統合を選択するということは、統合による店舗統廃合にともなう諸コスト削減のインセンティブが取引先を失うこと、収益のトップラインを失うことよりもはるかに大きかったのでしょう。

 

 ところで、いまさらなのですが、一般論として統合でなく店舗の廃止や人員整理などの合理化、経費削減ならできるはずです。縮小均衡は十分可能です。それを選択しなかった理由はなんでしょうか。これまでの地域金融機関の破たんのケースをみると店舗網を維持したまま破綻しているケースが実に多いのです。取引先の資金取引を維持するため、ぎりぎりまで店舗と人を確保しています。経営者はそこに社会的使命があると考えているに違いありません。
 
 アメリカの話で比較しても意味がないと思いますが、アメリカでは石油が出てきた、金が出たということで一瞬のうちに町が形成され、すぐに金融機関が出現します。そして、石油が枯渇すると町が衰退するまえに金融機関は一瞬のうちに消えてしまいます。アメリカではそうしたゴーストタウンを訪ねるという旅行が流行っているそうですが、そうしたゴーストタウンに必ず金融機関の看板がぶら下がっています(写真で見ただけですが)。ドライなものです。スミマセン、少々、話が横道にずれてしまいました。

 

 公取は「本件統合を実施するまでに債権譲渡額が当該金額に満たなかった場合には,本件統合後1年以内に追加的に当該不足額相当の債権を他の金融機関に譲渡する。」と条件を付けていますので、すくなくとも統合後1年間はその譲渡額に目を光らせることになります。統合後、「また十八銀行でお付き合いをお願いします」といった一定期間経過後に戻すという裏の約束を取り付けることも十分あると考えられますが、そうした事実が発覚したときには、分割命令はでないにしても、なんらかのペナルティがあるかもしれません。したがって、債権譲渡についても、これまた厳格な運用が求められているのです。

 

 両社は債権譲渡について、その高圧的な雰囲気を緩和させるために、借り換えサポートという名前で取引銀行の変更を進めてきましたが、「今回、金融機関変更の手続きサポートを実施いたしますが、私どものお取引先を積極的に支援していくスタンスを変更するようなことは決してございません。取引金融機関変更申出の有無にかわらず、全てのお取引先に従来以上サービスを提供してまいります」という説明を行っています。なんとなくですが、貸出債権の一部譲渡をイメージしているように思われます(考えすぎかもしれませんが)。この点は公取も承知しているはずですので、取引先との完全断線を求めているわけではなさそうです。少しの救いかもしれません。