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鳥取銀行の支店撤退に抵抗する地方公共団体

鳥取銀行が地元鳥取県日南町(鳥取県内陸部の豪雪地帯。人口4300人)の生山支店を撤退し、隣町の日野町・根雨支店と再編統合する方針を明らかにしたことを受け、日南町の町長が撤退への対抗策として、支店から町の預金5億円を引き出すというトラブルが起きた。今後、銀行と日南町は町民預金者の不便さの解消など善後策を引き続き協議するが、撤退は決定済み。支店の撤退について町議会は反対の決議も行っており、地方公共団体が当事者として徹底して反対姿勢を示したのは珍しい。

◎地銀頭取VS町長

 

 新聞報道によると9月14日、鳥取銀行の平井頭取が増原日南町長と面談、支店撤退に理解を求めたという話題が記事になっていました。中国地方の山間部にある銀行支店の撤退は以前から進んでおり、その代替として代理店を活用しているケースが多いようですが、今回は1台のATMと置き換えるだけです。人口減少が進むなかで銀行側も生き残りをかけて店舗の統合を進めており、今回の鳥取銀行側の経営判断に間違いはないと思います。

 

 支店の管理収益は赤字続きだったと想像します。支店の行員も限界まで削減しているはずです。パートの窓口の受付2人、渉外係1人、営業・融資担当一人体制といったところではないでしょうか(もしかすると支店長はほかの支店と兼務しているかもしれません)。これで支店としては限界です。費用削減のためにこれ以上の人員削減は、管理上のリスクを生じます。

 

 ある頭取は「過疎地店舗のコストはほかの利益でカバーするのが銀行の社会的使命なので、我慢している」と話していましたが、支店撤退と地方公共団体との対立は、そうした社会的使命という言葉が次第に希薄化せざるをえないほど、銀行経営が追い詰められているという証といえます。
 
 首長の反対を押し切るのですから、銀行側もある程度のダメージを覚悟したはずです。当然、公金預金の扱いはなくなりますし、貸出もなくなるはずです。勿論、個人の預金者の口座も移転するはずです。
 
◎金融庁の不在を実感
 
 今回の対立の構図で少し違和感があったのは、金融庁がまったく関与していないことです。店舗規制を自由化してしまった以上、金融庁は一切、関与できません。いや、しません。免許業者であることの色彩、雰囲気が失せています。トラブルがある以上、完全に見放せず、相談・仲介に乗るということができなかったのかという疑問です。
 
 金融庁が関与しないため、今回は地元住民代表である地公体と銀行の2者が当事者となりました。個々の住民が銀行に反対と意見しても力にはなりません。地元住民の相談相手になれたのは、反対決議まで行った町議会だけでした。当局が介在しない店舗自由化とはこうした時代も容認することなのだと改めて感じさせました。言わずもがなですが、競争自体が消えるのですから、公取の介入も存在しえません。

 

 戦後の地銀の支店の撤退のパターンをみると、当局の指導もあり、その跡地に信金(あるいは信用組合)支店が生れています。信金組織拡大の素地となりました。そして時代とともに周辺の農協も撤退し、金融の集中がさらに進みます。信金がその支店を維持できなくなると、支店を廃止し、渉外係による、いわゆる宅配体制でカバーするという形をとりました。過疎化にともなうこうした“進化論”は普遍的で誰も否定することはできません。

 

 民間の金融インフラの消滅に対して、合理的で有効な対策は存在しません。理屈だけなら(実現性を無視してという意味です)、①地公体自ら公的銀行を設立して(あるいは代理店として)、町役場に金融の窓口を作るか、②あるいはゆうちょ銀行、日本政策公庫に依存するしかありません。高齢化率の高い過疎地でのネットという対策は、デジタルデバイドがあり、機能しない可能性が高く、各戸にパソコンを渡してそれでおしまいという訳にはいかないでしょう。

 

 預金はあるのに、現金の引き出しができない、振り込みもできないというインフラの崩壊は、東京に住んでいる身にとっては想像できません。今回の地域は年金受給者が多い地域だと思います。受給者が自ら自動車の運転ができなくなり、銀行に行けなくなったとき、瞬時に“金融難民”となる可能性があります。

 

 今回の事態で思い起こされるのは長崎の地銀の再編です。すでに親会社から統合後に店舗の再編を行うことが表明されていますので、支店がなくなる地域が出てくることは間違いありません。そのとき、事情が同じであれば、地公体が反対決議を行い、首長が頭取と協議するというシーンが繰り返されます。結論は見えています。首長の敗北です。

 

 金融難民化を防ぐには、政策的な配慮によって金融インフラの崩壊を防ぐか、あるいは住民が移民となってその地域を去るしか選択の余地はありません。勿論、後者の選択肢は取りえません。