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未来投資会議の地銀独禁法適用論議

地銀の経営統合について総理が主催する「未来投資会議」で論戦が始まった。11月6日に開催された未来投資会議に「地銀等の経営統合などに対する独占禁止法の適用の在り方」の論点メモが事務局から提示され、今後の検討の大枠が示された。11月下旬から地域政策についての検討会で議論が始まり、来年の春までに未来投資会議としての方針が決まり、6月の政府の成長戦略に盛り込まれることになる。このメモのポイントを整理したい。

◎常識的には独禁法ガイドラン改正

 

 当日の未来投資会議の様子は、さながら「杉本公取委員長を取り囲むという雰囲気だった」(関係者)そうです。居並ぶ総理以下の諸大臣を前に杉本委員長は孤軍奮闘、長崎の地銀の統合についての審査の正当性を堂々と説明、反論の余地を与えなかったようです。ただし、これも従来からの説明ですが、統合を審査する際に、シェアだけをみているわけではないことを強調し、繰り返しました。


 さて、論点メモですが、以下の4点がパッケージになっています。


 第1は、検討の対象となる業種を原則、地銀と乗合バスの統合としたということです。地方の乗合バスも地銀と同様に過疎化によって統合しないと経営が維持できない深刻な事態にあります。従来から国交省や経産省が乗合バスの統合について独禁法の弾力的運用を求めていたという経緯があり、この秋からの未来投資会議で検討する予定となっていました。そこに長崎の地銀統合の話が飛び込んできたため、これを合わせて検討するということになったわけです。地銀のためだけに未来投資会議を開催するのではありません。逆に言えば、乗合バスの問題がなかったら、地銀統合の議論はどこも引き受け手がなく、迷走した可能性があります。

 

 第2は、地域を狭く解釈しないということです。独禁法の統合審査では市場シェアが大きなカギを握りますが、メモでは「県域にかかわらず、・・・地方基盤企業の経営統合に対する独占禁止法の適用の在り方を検討する」としています。越境を前提としているようです。大きく市場の線引きを変えるかもしれません。

 

 第3は、独禁法適用に関する法規制を2種類提示したことです。「地方基盤企業が経営戦略として、経営統合等を検討する場合、それを可能とする制度を作るか、または予測可能性を持って判断できるよう、 透明なルールを整備すべきではないか」としており、前者は特別法立法、後者は独禁法のガイドライン新設・改正による対応を指しています。それ自体で独立した法律の立法となるとその作業は困難を伴う可能性があります。

 

 公取は、内閣総理大臣の所轄下にあるものの、準司法的な機能、準立法的な機能を有する霞が関とは離れた独立行政委員会であるため、その機能を制限する新法を作り難いという構造になっています。閣法で書く場合、どこの省庁が主管となるのか見当がつきません。内閣官房で立法するというのも無理筋です。議員立法も政府の最高の会議での決定に基づく以上、おかしなものです。官邸筋では特別立法を第1候補として考えているとのことですが、新規立法が無理筋となれば、既存の法律の改正か、独禁法のガイドラインで着地する可能性のほうが高いと思われます。経営統合だけがテーマならば、ガイドラインの新設の可能性があります。ただし、次のように政治色もあり、どうやらコトは単純ではないようです。
 
◎政治の匂いがプンプンと
 
 第4に付録が付いているという点です。メモには下記のような記述があります。

 

「以上のような経営統合等による地方基盤企業の再生については、真の再生と地域への還元に向け競争政策上の配慮を行うだけでなく、他の支援措置を含め支援策パッケージとして組むことを検討すべきではないか。」

「上記の地方基盤企業に当たらないものの、当該企業が営んでいる事業が当該地域内の雇用の維持、 取引の拡大、受注の機会の増大など、地域の住民又は事業者に対し、相当の経済的効果を及ぼすものであり、当該事業が存続できなくなることにより、当該地域社会の持続可能性に深刻な影響を及ぼすといった類型の企業について、どう考えるか。」

 

 付録は二つあります。「他の支援措置を含め支援策パッケージ」と「当該地域社会の持続可能性に深刻な影響を及ぼすといった類型の企業についてどう考えるか」という提案です。経営統合に支援策パッケージを付けるというのです。単なる再編統合ではないのです。この支援策の中身はまだ何も決まっていませんが、おそらく中小企業庁主導の「中小企業再生支援協議会」やREVICの関与あたりかがイメージされますが、いずれにせよ公的関与というニュアンスになります。金融機関統合ならば、様々な公的関与のシステムが充実していますので、この支援策にはやや違和感があります。乗合バスなら地公体からの補助金の拡充がちらつきます。

 

 後者の「類型の企業」はもっと胡散臭い感じがします。「当該地域社会の持続可能性に深刻な影響を及ぼす」と判断するのは一体、誰でしょうか。多分、国会議員です(あるいは大臣かもしれませんが、いずれにせよ政治家です)。病院とかガソリンスタンドならまだ、認めたくなりますが、漠然と大きな工場も対象とするのでは、如何なものでしょうか。

 

 政治の匂いがプンプンとしてきます。この未来投資会議のテーマは来年の成長戦略の目玉になる可能性があります。来年の参院選を考えれば、地方対策は必須のテーマです。11月6日の未来投資会議の後の安倍総理の記者会見で総理は、こう強調しました。異例な発言です。

 

「地方におけるサービスの維持を前提とし、ここが重要なところでございますので、もう1回申し上げます。地方におけるサービスの維持を前提として、地方銀行や乗合バス等が経営統合等を検討する場合に・・・」

 

 敢えてもう一度言うということからも、地方対策を意識していることが十分わかります。未来投資会議の下部組織として、独禁法に詳しい学者と地方行政に詳しい識者をメンバーとする「地方施策協議会」が新たに設けられました。総理のスケジュール次第ですが、早ければ11月26日、おそくとも12月上旬には次の未来投資会議が開催され、そこからこの協議会で年末、年始にかけて集中的に議論し、春には協議会としての結論を出し、それを未来投資会議の結論、来年の成長政略への盛り込みが実現するはずです。その後、立法となれば、再来年の通常国会で成立という運びになります。