投資用不動産融資アンケート調査の圧力

金融庁がスルガ銀行の「かぼちゃの馬車」事件をきっかけに、メガバンクをはじめ全国の地方銀行、信金、信組、ネット銀行を対象に、詳細な「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査」を実施している。年内に集計を終える予定だ。金融庁は実態把握によって問題が見つかれば、立ち入り検査を行うこととしている。アンケート調査の項目をみると、金融庁が投資用不動産向け融資を抑制しようとする意図がうかがわれる。金融庁は抑制意図を否定するが、読めば読むほど、金融機関側はあらたな融資は実施できないと感じるに違いない。

◎書類審査では済まない領域の調査を求める

 

「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査」の最大の意義は、実態把握にあることは間違いありません。金融庁の金融機関に対する日頃のヒアリングは広範にわたりますが、スルガ銀行で問題となった投資用不動産向け融資の実態把握は漏れていました。

 

 節税対策で増え始めた個人の貸家業向け融資について、日銀は数年ほど前から調査していましたが、その調査でも投資用というジャンルまで絞り込んだものはありません。この意味で初めての実態調査ということになります。調査結果からどのようなインプリケーションが出てくるのか、金融庁の公表を待つしかありません。

 

◎書類審査では済まない領域の調査を求める

 

 ここでは、調査に使われたアンケート用紙を眺めての感想を書いてみたいと思います。質問項目は42項目、関連する別表が3項目と大部なものです。対象を投資用不動産向け融資とすでに絞り込んでいますから、質問内容はかなり細部にわたります。まず、投資用不動産向け融資の実行額・件数・加重平均の貸出利回りから始まり、その期末残高、一棟建てか、ゲストハウスか、一部マンションか、と対象が細分化されていきます。まあ、常識的な質問項目といえるでしょう。

 

 その次からが細かくなります。平成30年3月期以前の状況として、つまり、現状ではなく、スルガの問題が表面化する以前に焦点を当てています。融資審査において、限度額管理を行っているか、融資対象物件に係る収支以外の収支(債務者の給与所得等)を考慮しているか、収支シミュレーションを実施したうえで融資を実施したか、その収支シミュレーションの提出要請とスルガ銀行事件で課題となった点を点検しようとしています。これも、まあ当局の調査としては当然の質問です。

 

 ところが、さらに質問は微妙な点について触れていきます。「債務者の購入する不動産の価格水準が、物件の立地条件・賃料相場等の観点から妥当であるかどうか検証しているか」「物件の現地調査や近隣評価の確認を行っているか」

 

 つまり、銀行で本来行うような融資審査の枠を超え、不動産業者でなければ確認できないような水準のチェックを求めています。シェアハウスの賃料相場をどうやって調べるのでしょうか。現地調査といっても、現状、銀行は専門業者に委託しているはずです。近隣評価といっても、どこまで実施するのでしょうか。つまり、金融機関側に過度に調査を要請していることになります。勿論、こうした調査を行っている金融機関はあります。しかし、どこまで厳密、しかも中間与信管理を含めてどこまで継続的に実施するかによりますが、金融機関側の負担は相当なものになります。結果として、極めて十分な対象物件の調査を求めていることになります。書類の審査では済まない領域です。

 

◎嫌味?と圧力の質問

 

 こんな難しい質問もあります。「営業店・審査部や保証会社等の各主体がそれぞれそのような観点から審査を行っているか、役割分担の概要をご記載ください」。各セクションが責任をもって審査しているとしか、答えようがないはずですが、何を調査で期待しているのでしょうか。まさか、保証会社にすべて任せていますといった答えでも期待しているのでしょうか。金融機関側にとっては嫌味な質問です。金融庁はほかの意図があるのかもしれませんが、部外者から見ても、意図不明です。

 

 こんな質問もあります。「融資態勢について、平成30年4月から現在に至るまでの間に改善や見通しを図った実績がある場合、どのような改善を行ったのか。また特段改善を図っていない場合は空欄として下さい」。スルガ銀行事件の発覚以降、問題意識があったのかどうかを聞いているわけです。また、スルガ銀行と同じような態勢ではないですよねと念を押しているわけです。
 
 前段のパラグラフで指摘した現地調査などの強化要請やこれらの質問によって、投資用不動産向け融資が委縮することは必至です。ある金融庁の幹部もそれを否定しませんでした。質問内容をどうするか、内部でも相当の議論があったと聞きました。金融庁も匙加減に苦労したと思われます。かつて、ノンバンク3業種規制がきっかけとなり不動産価格が暴落した歴史があります。その恐怖がよぎったはずです。

 

◎矛先は持込不動者業者にも

 

 調査の矛先は、融資を仲介した業者にも向かっていきます。スルガ銀行では、チャネルと呼んでいた会社です。これを、「持込不動者業者」(債務者を紹介してくる業者)と定義して、「持込不動産業者との取引開始、もしくは停止する際の要件・基準を定めているか。その具体的な概要を記せ」、あるいは、5億円以上融資した持込不動産業者の一覧表作成を要求しています。

 

 アンケートはパソコンですぐに集計できるような工夫が凝らされており、いわゆるスマートデイズなどの悪質な業者が、一気にわかるようになっています。この一覧が公表されれば、相当なインパクトがあると思われます。明らかに金融庁はサブリース会社をふくめ、こうした持込不動産業者を排除しようとしています。

 

◎返済不能の可能性の説明義務はあるのか

 

 最後は投資した個人債務者へのリスク説明が十分だったかという質問が並んでいます。融資審査の現場を知らない小生にとって違和感のある質問が並びます。たとえば、「融資対象物件の賃料・空室率の推移により債務が返済不能となる可能性がある旨」について説明しているかというものです。

 

 そもそも金融機関側にこのような説明責任があるのでしょうか。「融資しますが、返済不能になる可能性がありますよ」と説明しなければならないのでしょうか。

 

「持込不動産業者がどのような点を債務者に説明したことを確認しているか」という質問項目がありますが、このようなことを通常、金融機関は行っているのでしょうか。たとえば、一般的な不動産融資のときに、不動産屋が債務者に説明したことをいちいち確認する義務(このアンケートでは義務とは書いていませんが)、責任があるのでしょうか。

 

 このアンケートからは、対象物件についての厳格な現地調査を不動産業者でなく金融機関側に求め、スルガ銀行事件の発覚後に審査態勢を見直したかどうかと聞き、そして持込不動産業者を排除するような金融庁の姿勢がありありとうかがえます。

 

 基本的には、一罰百戒と思っています。実際に、多額の投資用不動産融資を行っている地銀や信金があります。それらを炙り出して、止めろと誘導しようとしているのではないかと推察します。昔の横串を通すような特別検査を実施しないものの、自覚を促すという手法をとったものと理解しています。