· 

日本郵政のアフラック投資のメリットは?

日本郵政は12月19日、米保険会社アフラック・インコーポレーテッドの発行済み株式を2019年中に7%を取得すると公表した。4年後には持ち分が20%となる見込みで、事実上の筆頭株主となる。ブロック取引または市場価格で取得価格は、ブロック取引価格(アフラック保有の金庫株の放出)やアフラックの株価次第だが、総額で2500億円から3000億円程度の規模になる。ただし、公表された内容からは日本郵政にメリットが見えず、アフラック側だけにメリットがあるように見える。なぜ、日本郵政はアフラックの株式を購入するのか。

◎どこが戦略的なのか

 

 この投資(新規の出資ではありません。第3者割当でもありません)の評価をする前に、事実関係を整理しておきたいと思います。まず、新規株式の割り当てではなく既存の市場からの買入だということです。7%相当ということですが、4年後の議決権のシェアは20%程度を予定しています。アフラックの株式は独自のインセンティブが付されており、4年間保有し続ける取得株式の議決権は10倍になります。これはどの投資家の場合でも同じです。日本郵政だから優遇しているわけではありません。

 

 株式の買入は信託銀行を通じて、少しずつ買い増していくようです。株価への影響を避けるためです。一気に買おうとすると株価が上昇し、必要な株数を確保できなくなる恐れがあります。そして最終的に7%ということですが、4年後に10倍になるのなら、議決権は70%になるのではないかと勘違いする方もいるかもしれません。しかし、ほかの株主も同様に10倍になるので、日本郵政のシェアはそれほど上がりません(すでに10倍になった株主もまだ10倍になっていない株主も混在していますので、このような20%という水準になるようです)。

 

 公表では20%の取得は、あくまで見通しだと思われます。7%では不足するかもしれません。20%が最終目標ならば、株価次第ですが、もっと買入する必要が出てくるかもしれません(その反対もあります)。

 

 アフラックへの投資リターンは、現時点での配当利回りで見ると3%台半ばです。日本市場ではこの利回りでは決して高いとは言えないでしょう。勿論、アフラックの株価が上昇すれば、キャピタルゲイン分を含めトータルのリターンは高くなります。

 

 日本郵政は取締役を送り込むことは考えていないと宣言しています。「アフラック生命のビジネスの成長が日本郵政への利益貢献につながるという双方の持続的な成長サイクルの実現を目指すもの」としています。つまり、純粋にアフラックの配当と株価上昇を見込んでいるわけです。となると通常の株式投資と変わりはないように見えます。しかし、長門社長は「戦略的提携」と形容しています。ならば、日本郵政とアフラックの双方に意義が認められなければなりません。

 

◎アフラック側に偏在するメリット

 

 日本郵政側にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。日本郵政がアフラックの保険商品を売れば売るほど、販売手数料が入ります。手数料が入れば、日本郵政にとって収益のプラス要因です。それは同時にアフラックにとっても利益増大の要因となります。また、アフラックの利益増による配当収入の増加も期待できます。株価上昇によるキャピタルゲインも期待できるかもしれません。気分のいいストーリーです。

 

 ただし、このストーリーには日本郵政がアフラックのためにアフラックの保険を売ればという前提があります。日本郵政は「株式を相当額買うのだから、アフラックの保険を売れ!」という号令をかけるのでしょうか。アフラックを子会社にするというのなら、そうしたインセンティブが直接働きますが、純投資の形をとっている以上、アフラックのために保険を売るというインセンティブは働きません。何か裏の約束でもあるのではないでしょうか。たとえば保険販売の手数料を引き上げるとか・・・。

 

 いずれにせよ、何らかの密約でもない限り、この株式投資は合理的ではありません。日本郵政の郵便局の人的経営資源をアフラックの保険販売(かんぽ生命でなく)に投入する以上、積極的な根拠が必要です。

 

 一方、アフラック側にはたくさんのメリットがあります。いま、実はアフラックの新規の保険契約数は伸び悩んでいます。昨年の半分の水準です。アフラック側の経営は焦っていると思われます。こんな状況のなかで日本郵政が保険を売ってくれるのなら御の字。労せずして保険が売れます。しかも、安定株主(筆頭株主)となり、株価も安定します。

 

 アフラックの収益の7割が日本の保険販売によってもたらされています。その結果、資産の8割が日本の現地法人にあります。日本で保険契約を伸ばすことが、アフラックの利益と配当を支えている構造です。アフラックの株主比率は法人7:個人3。日米の比率は不明ですが、アメリカの株主が多いはずです。ということは、日本郵政の職員が一生懸命、働けば働くほど、アメリカの株主(仮に日本人が保有していないと仮定すれば20%の投資の残りの80%相当)が恩恵を受けるということになります。

 

 ブロック取引もあるということですが、おそらくアフラックの金庫株の放出だと思われます。アフラックが利益調整(配当原資の確保も含む)のために、金庫株を市場に売りだすと株価が下落する可能性があります。日本郵政が引き取ってくれるのなら、そうしたショックを回避することもできます。アフラックの資本政策にも資するのです。

 

 ことほど、今回の投資はアフラック側にメリットが偏在します―としか思えません。では、なぜ、日本郵政は買うのでしょうか。これも推測の域を出ませんが、今後の日本郵政の株式放出の際にアフラック側に買い取ってもらうことが考えられます。一種のバーターです。株式放出の際に価格を安定化することができます。しかし、これも説得力を欠きます。アフラックが最大3000億円程度買えば株価は維持できると考えるのは、素人考えかと思います。

 

 すべて藪のなかです。日本郵政にとって純投資以上のメリットが本当にあるのでしょうか。ついでに、もうひとつ藪のなかですが、事実上まだ準国有企業である日本郵政がアメリカの保険会社に投資することについて、アメリカ政府は容認しているのかどうかということです。トランプ政権があれだけ外資の進出に気を配り、とりわけ国有企業には神経質になっているのに、OKを出しているのでしょうか。単なる純投資、出資でもなく役員の派遣でもなく、経営の乗っ取りでもないとしてもです。