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誰も喜ばない貯金限度額の引上げ

政府の郵政民営化推進本部が1月18日開催され、昨年末、郵政民営化委員会が公表した意見書通りに、ゆうちょ銀行の定期性貯金と流動性貯金の預入限度額をそれぞれ1300万円とすることを決定した。合わせると現行限度額の2倍となる。4月1日から実施することとし、関係政令の改正案をパブコメに付した。なぜ、限度額を引き上げる必要があるのか、ゆうちょ銀行、民間銀行、金融庁を含めた当事者の意見を無視した決定にはどんな意味合いがあるのか。

◎全特にとってもメリットはない

 

 誰もメリットを感じない貯金額の上限引き上げには驚きを隠せません。一部の政治家だけの勝手な思惑だけで、引き上げが勝手に引き上げられました。全国郵便局長会(全特)に対して今年の7月の参院選への協力を取り付けるためという政治家の思惑が主導しましたが、しかし、この引き上げによって受益者となるはずの全特にとってメリットとならないのが不可解です。

 

 まず、今回の決定の概要を示しておきます。
「通常貯金と定期性貯金の限度額を別個に設定することとし、限度額は、それぞれ1,300 万円ずつ同額とする。その実施時期については、平成31 年4月からの実施を目指す。
 日本郵政グループ及び政府に対し、以下の2点の取組を求める。
① 貯金獲得に係るインセンティブを他の評価項目への振替等により、撤廃すること。
※給与振込口座の獲得など顧客基盤拡大を評価項目とすることを否定するものではない
② 将来の見直しについては、グループのバランスシートの抑制と戦略的活用を含めた日本郵政のビジネスモデルを再構築し、日本郵政が保有するゆうちょ銀行株を3分の2未満となるまで売却することを条件に、通常貯金の限度額について検討すること。」

 

 確かに日本郵政は「通常貯金の上限額を超える残高を振替貯金に自動的に移動するオートスウィングの利便性向上のために、通常貯金を限度額の撤廃」を要望していました。また、全国郵便局長会(全特)は、同時に「定期性貯金の限度額引上げ」も求めていました。金融庁は全面反対のスタンスです。

 

 現状、定期性の貯金限度額は1300万円ですので、流動性貯金から定期性貯金に振り替える人がいるのなら、定期性の貯金が増える可能性があります。しかし、その可能性がある人は限られています。となると、そもそも定期性貯金が増える余地はほとんどありません。一方、決定文には「貯金獲得に係るインセンティブを他の評価項目への振替等により、撤廃すること」とあります。その限られた定期性貯金預かりのインセンティブ(奨励手当・営業手当)も同時に削除するのです。全特にとって、どこかメリットなのでしょうか。そもそも全特の定期性貯金限度額の引き上げ要望は「条件なし」での要望でした。こんな条件がついているとは想定外ではなかったかと思います。

 

 郵便局の渉外社員(18000人)のインセンティブは、基本給に対して12%分相当が営業手当として予算化されています。ただし、営業実績(営業手当)の対象は、「定額定期新規預入・年金自動受取・投資信託・変額年金の支給率引き上げ」となっています。投信の窓販以外では、「新規の定期預入」が対象なのです。念を押しますが、流動性の積み上げは営業のインセンティブの対象ではありません。繰り返しますが、伸びがあまり見込めない定期(定額)貯金の新規分が対象なのです。引き上げに対する民間金融機関も強く反発することはありませんでした。実質的な意味がないと見切っているからにほかなりません。

 

 そうなると、そもそも対象となる貯金が増えるものではなく、その営業手当も消えてしまうというのでは、全特側にとっては、何もメリットがありません。新規定期貯金を獲得すると、1件につき窓口では1000円弱、渉外では3000円弱の手当てが支給されていますが、その予算消化のために、おそらくほかの商品販売に動くはずです。そうしないと職員各人の手当てを含めた総収入が落ち込むことになります。
 
 仕方がないから投信を売るかというインセンティブに代わるはずです。職員にしてみれば、なんだということになります。結局、投信販売の強化ではないかと。ドタバタしたけれど、自分たちの収入が増える話ではないではないかと思うはずです。これで選挙対策とは笑止千万。どこかで歯車が狂ったようです。ゆうちょ銀行としてもどうせ貯金を集めても運用できないのなら、限度額を上げることなど、どうでもいいことと腹をくくっているのでしょうが、無益な交渉だと言わざるを得ません。

 

◎通常貯金の限度額撤廃は事実上先送り
 
 もう一点、おかしなことは、将来、通常貯金の上限撤廃の議論を始めるときは、「日本郵政が保有するゆうちょ銀行株を3分の2未満となるまで売却すること」を条件としたことです。現在、日本郵政はゆうちょ銀行の株式を89%保有しています。これまで日本郵政の株式は2度、売却され、政府保有比率は57%となり、あと1回の売却で法律で定められた下限である保有率33%となる見込みがあります。

 

 一方、ゆうちょ銀行の株式は最終的に全額売却することとされていますが、一回だけ売却されただけで、まだ残りの売却のめどが立っていません。前回の2次売却のときに、ゆうちょ銀行の株式は売却されませんでした。なんといっても売却のチャンスは日本郵政の株式の売却時です。しかし、日本郵政の売却が残る1回のチャンスならば、ゆうちょ銀行の株式を売却するチャンスも1回かもしれません。大げさに書きましたが、すくなくとも売却のチャンスはそうないと思われます。
 
「3分の2未満」=66%にするには、あと23%(89―66)も放出しなければなりません。これも強調しますが、最初の第1次売却時で放出できたのは11%だけだったのです。このぺースなら、あと2回分残っている計算です。しかも、日本郵政もゆうちょ銀行の株式を放出しようという姿勢は示していません。これは日本郵政の株価に大きく影響するからです。稼ぎ頭のゆうちょ銀行の株を売却すれば収益力が落ちることがはっきりしているからです。ということは、当面、「3分の2未満」の達成は考えられないということになります。つまり、こんな条件を付けたということは、通常貯金の上限撤廃は当面ないということなのです。
 
◎現金の入っていないお年玉

 

 日本郵政の長門社長は昨年の夏までは精力的に官邸詣でを繰り返していました。しかし、いまはそうした動静は伝わってきません。ゆうちょ銀行の池田社長も今回の限度額引き上げには一切タッチしていません。通常では考えられないことです。大きな経営課題の議論に加わっていないのは珍妙です。事態はあきらかに当事者不在のダッチロールといえます。本来なら、責任論が出てもおかしくない状況です(もっとも誰もが無視するような話なら責任論にもならないかもしれません)。
 

 今回の決定は麻生大臣の決断ということになっています。昨年の12月の初めから動き始め、たったひと月で決めました。金融庁も動いた節はありません。総務省もです。金融経済的に意味のない決断でも政治の世界では貸し借りの清算となることがあるはずです。形式的なことでも意味はあります。実際にはほとんど現金が入っていないお年玉を麻生大臣が配っただけなのですが、正月早々、受け取るほうも迷惑だったに違いありません。


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