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10連休を社会実験として

天皇の即位・改元を5月1日としたことから、4月27日から5月6日まで、史上初の10連休がいよいよスタートする。社会的、経済的混乱が想定されながらも政府は超長期の休日を演出した。天皇の即位を言祝ぐことには異論はないが、社会システムのリスクを抱えることをどれだけ慎重に検討したのか、判然としない。日本の市場を含む社会システムを不安定化させてまでも強引にカレンダーを作り替えた理由について考えたい。

◎政策意図は参院選の勝利のため?

 

 10連休という政府の決定には、おめでとう気分の演出があったのは間違いありません。ただ、それにしてもあまりにリスク感覚に乏しいと言わざるを得ません。当初、退位を3月末、即位を4月1日とする宮内庁の方針がありましたが、それが常識というものではないかと思っております。

 

 それを敢えてゴーデンウィークのど真ん中にはめ込んだ政府の意図とは何なのでしょうか。確かにナガーイお正月気分で、日本国民の脳みそを休め、一時の日常から、あるいは憂き世から解放されるという政策もありなのでしょう。しかし、そんな政策をそのまま鵜呑みにはできません。

 

 むしろ日本人を長い間、お風呂に入れてゆでガエルにして、政治感覚を麻痺させるという意図があったと考えるべきでしょう。勿論、政治とは今年の7月の参院選のことです。与党への批判圧力を回避するためです。G20、外交日程が参院選の前までに連続しています。こんなスケジュールでは、安倍政権・政府批判の場がほとんどありません。政権は常に強く維持するというセオリーがありますから、どんな手段を使おうが、許されます。政治とはそういうものでしょう。

 

 ただし、今井総理秘書官(あるいは総理周辺)が日程案を上申したと聞いていますが、今井氏はこうした社会システムの混乱をどこまで考慮していたのか伺いたいと思います。社会システムをリスクにさらすことの怖さをどこまで認識していたかということです。例えば、もしかすると株価暴落の引き金になるのではないかといったセンスがあったかということです。

 

 リスク感覚の鈍麻は社会のほころびにつながっていくものです。「いやー、ハワイに行っていたので株価なんか気にもしていなかったよ」という空気が緊張感を失わせるのです。しかも海外はそうした能天気な日本の市場をいくらでも操作できます。操作されても、なお能天気で居たいと判断したのでしょうか。

 

◎ATMが存亡の危機に

 

 このコラムは金融のコラムですので、10連休対策を書くべきところなのですが、あまりにもメニューが多過ぎるのでいちいちコメントすることができません。取りあえず、株式市場の混乱回避と金融決済の確保あたりが最大のテーマなのでしょうが、証券会社も銀行もその対応に追われています。コストもバカになりません。銀行に限れば、初の二ケタ連休にシステムが対応できるかどうかというテストとシステム開発が必要になりました。銀行融資の期限切れが起こらないか、金融庁から事前に全取引先の資金繰りをチェックするというお達しも出されました。ATMの現金充てんも大変です。

 

 ただ、マイナス面だけを見ていても仕方ありません。10連休は一種の社会実験ととらえると新しい視点が生まれます。連休に耐えられるかどうかというストレステストの意味あいもあります。

 

 上記のATMをとっても意義のあることです。ATMの現金の充当は適当でいいという判断を生むかもしれません。顧客のなかには、ATMが使えないのなら、ほかの決済手段に移行しよう-QRコード決済を使ってみようとか、現金決済はやめてクレジットカードにしてしまおうとか・・。となるとATMが今後、使われなくなるきっかけになるかもしれません。大げさに言えば、ATMの存亡をかけた実験になります。決済システムの実験です。

 

 加えて、新札の発行です。政府は改元のおめでたさを演出するために新札の改札を繰り上げて公表しました。これもATMにとっては逆風になります。旧札と新札を扱うためにシステムとハードの改造が求められます。この機会にATMの設置をやめるという銀行が続出してもおかしくはありません。

 

 金融のごく一面から連休の影響を考えてみましたが、ほかの分野でも同様のことが起こります。医療現場、交通システム、郵便システム、政府・自治体の休日体制などなど。もし、10連休を社会実験の場として検討していたとするならば、それは大変な思慮です。政治的な思惑と書きましたが、その場合は撤回することにします。