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難航する検査マニュアルの廃止

金融検査マニュアルの廃止のための準備作業を進めている金融庁の「融資に関する検査・監督実務についての研究会」が、昨年7月に初めて開催され、10月の第4回の開催を最後に半年以上も開催されていない。内容が詰め切れていないという。当初の目論見では、今年の春までに結論を得るということだったが、頓挫している。現状の検討状況はどうなっているのか。

◎長期戦覚悟の検討に

 

 金融検査マニュアルに代わる新しい金融機関の資産分類と償却・引当の指針つくりを目指していた「融資に関する検査・監督実務についての研究会」の検討状況はどうなったのかという声を金融機関の方々から耳にします。金融庁は、当初目指していた年度初の方針公表を先延ばしして、「非公式」に「今年度中」に指針を公表すると感触を流しています。原案つくりが難航しているようです。

 

 関係者の方々から聞きますと、まず、金融検査マニュアルは「当面、維持。場合によっては相当長期間にわたり、廃止されない」ようです。研究会で方針が固まったのは、唯一、公認会計士協会からの要請があった、「正常先」概念の存続のみ。昨年の10月の研究会で金融庁の事務方から提案されたアメリカ流の業種別引当方針は、大手金融機関を除き(これも確定ではありません)、中小金融機関の場合は適用されないという方向の模様です。一律の業種別引当は困難かもしれません。

 

 すでに引当は、各金融機関、あるいは公認会計士の判断で弾力的に運用されており、それを追認するというものになるようです。そもそも、引当が「企業会計原則」に則る以上、金融機関だけが特別に弾力化するということは、公認会計士も認めることはできないでしょう。常識的な判断であると思われます。

 

 結局、DCF方式を広範囲に採用するということで着地しそうです。ある金融庁幹部は「基本はバブル以前の審査に戻すということ」と話しています。バブル期の担保、保証ありきの融資を見直し、それ以前の事業性評価をしっかりと行っていた審査に立ち戻るということとのこと。この20年間に失われた審査機能を回復させようという政策意図なので「方針を示すまで、また金融界の納得を得るまで時間がかかる」という説明でした。ある幹部は「20年間使っていたマニュアルなのだから、それを見直すのも20年かかると話していました。実際に20年かどうかは別として、長期戦ということになりそうです。

 

 論点のひとつの債務者区分と引当の切り離しが可能なら、柔軟な引当がとなり、運転資金と設備投資資金の引当率を変えることができますが、これも金に色目はなく、実務的に運用できるのかどうか、金融機関側からも異論が出ているようです。

 

 金融庁もいずれかの時点で方針を示さざるを得ません。ただ、そのレベルというか骨格というべきか、枠組みは大まかなものになりそうです。「現状の追認」に何らかの色付けが施されると思われますが、それが実務的に耐えられるかどうか、まだまだ先は長そうです。

 

  (追記)

 

  債務者区分と引当率をリンクさせているのは、世界では日本だけだそうです。日本の銀行の会計処理は企業会計原則の特則扱いとなっていますが、なかでもっとも特殊なのは、引当率を当局・金融庁が決めていることです。要管理先が15%とか破たん懸念先が70%とか、自己査定の際のメルクマールがあります。いま、伝えられている情報では、債務者区分と引当率を分離させる方針とのことですが、最終的に、公認会計士のサポートを受けた銀行の自己査定を金融庁が否定してしまえば、結局、現状と変わらなくなります。形式的に分離しても実質的には従来通りということになります。この自己査定も完全自由化するというのであれば、画期的です。実質的に検査マニュアルが廃止されることになります。早く結論が明らかにされることを期待しております。(常識的な追記になりますが、念のため加筆致します。5月23日)