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地銀再編に使えない?独禁法適用除外特例法

政府の未来投資会議は6月5日、今年度の「成長戦略実行計画案」を公表した。このなかで地銀関係者が強い関心をもっていた地銀再編のための措置として、独禁法適用除外を申請できる特例法を来年の通常国会で成立させることを明記した。しかし、使い道はあるのか。

◎厳重な要件を明示

 

 政府の成長戦略である「成長戦略実行計画案」に盛り込まれた地銀再編特例法は、想定よりも厳重な条件が付されました。経営統合を行おうとする地銀は、金融庁に対して特例法に基づき独占禁止法適用除外の申請を行い、金融庁は特定の要件に該当するか確認し、その後、公正取引委員会と協議するという手順です。気になるのは下記の要件です。

 

① 地銀が将来にわたって当該地域における当該事業の提供を持続的に行うことが困難となるおそれのある地域であること。
② 地銀が継続的に、当該事業からの収益で、当該事業のネットワークを持続するための経費等をまかなえないこと。

 

 経営実態が事実として困窮しているという要件が必要だとしているわけです。では、ある地銀が金融庁に対してこの申請をしたとき、市場関係者(預金者、借入企業も含む)はどのように反応するでしょうか。申請=破たんと考えるに違いありません。わざわざ破たん認定申請するようなものです。敢えて言えば、預金保険法の適用申請とほとんど変わりありません。
 
 本来は金融庁の裁量による判断に基づくべきものと考えます。それを当該地銀から「申請」という行政手続きを踏ませることにした点に違和感があります。この申請を自主的に行う地銀があるとは思えません(勿論、当局の誘導はあるでしょう。しかし、それを認めれば金融庁に対する行政訴訟を引き起こす可能性があります)。ということは、この特例法が使われない可能性があります。政府の公式の文書にこのように条件が書き込まれた以上、来年の法案はこれに拘束されます。柔軟な対応が盛り込まれるとは考えにくいはずです。

 

 しかも、「金融庁は要件を満たす場合には、公正取引委員会に協議を行い、要件該当性を含めた公正取引委員会の意見を尊重する。」とあります。結局、公取に最終判断を求める手順です。金融庁は統合したいと考えるが、公取は消費者の利益を考えて反対という事態が依然としてあり得ます。

 

 特例法を策定する以上、誰が最終決定責任者なのかが明示されると考えていましたが、どうやら公取が最終決定責任者という構造は変わらないということになります。最終的な法案がどうなるか、まだわかりませんが、ここまで具体的なプロセスを明示した以上、特例法は極めて使い勝手に悪いものとなりそうです。