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Facebookの暗号通貨リブラのシニョレッジ

Facebookが6月18日に暗号通貨リブラ(Libra)発行の概要・ホワイトペーパーを公表直後から、各国金融当局でその影響度について検討が進められている。従来の暗号資産(仮想通貨)とは異なり、準通貨としての性格があるため、金融政策、金融システムへの影響がどこまで広がるのかという大きな課題に加え、マネロン対策、消費者保護政策、プライバシー保護も大きな問題となっている。G7のリブラ問題作業部会は、これらの課題について10月までに報告書に取りまとめる予定だ。その規制次第ではリブラの商品性も大きく変わってくることが予想される。リブラの商品性はすでに広く知られているところなので、ここでは「Facebookはリブラで儲けることができるのか」、そのビジネスモデルについて焦点を当てて考えてみたい。

 

◎通貨発行益・シニョレッジはいくらか

 

リブラはジュネーブに拠点を置くNPO「リブラ協会」が発行します。創業時点での協会メンバーはFacebookを含む数十社で、運用開始までに100社に増やす計画となっています。リブラは各国の法定通貨や政府債によるバスケットを裏付けとして発行されます。裏付けとなる資産をリザーブといいます。

 

従来の暗号資産は、この法定通貨などによる裏付けはありません。通貨が裏付けですから、その価値はリザーブ以下、あるいはそれ以上にはなりません。実際には若干のプレミアムが付くでしょうから、かならずしもバスケットと常に同じ価格ではないものの、ほとんど価格の差はないとみられています。価格は安定します。したがって、決済に向いています。反対にリブラは値上がりを見込んだ投資対象にはなりません。

 

協会メンバーの出資についてあらかじめ決められた配当はありません。ゼロです。リブラはほとんど無コストで調達されます。一方、調達したリザーブ資金は、単なる担保として保管されるだけではなく、運用されます。この運用益がリブラ協会(これに販売業者が含まれます)に転がり込んできます。それは丁度、中央銀行が銀行券を発行して、その運用益=シニョレッジで利益を上げている構造とまったく同じです。

 

では、協会はいくらのシニョレッジを手にすることができるでしょうか。日経新聞の「大機小機」(7月24日付)に面白い試算が出ていました。現在、世界の流通現金量は31兆ドルと推定されています。世界人口は73億人ですが、Facebook利用者は27億人に達しています。世界の人々の37%が利用していることになります。ここからが、かなり強引な試算になるのですが、Facebookの利用者が保有する現金をすべてリブラに代替すると11.5兆ドルになります。人口比が保有現金比にはならないのですが、取りあえずの試算です。

 

さて、この11.5兆ドルがリザーブされ、たとえばアメリカの中期・短期国債で運用、その金利を2%(いまはもっと下落していますが)とすると、毎年、2000億ドルもの収益があがります。これを協会メンバー100社で仮に平均的・イーブンで分配すると、各社20億ドルもの収益が入ります。試算の前提が前提ですので、このまま鵜呑みにはできません。

 

しかし、リザーブ運用益が見込める―これがFacebookのビジネスモデルの核心です。別の視点からみれば、世界の中央銀行のシニョレッジを横取りするということです。しかも、各国政府の信用力の力を借りてです。他人のフンドシで稼ぐということです。Facebookは金融包摂を主張していますが、きれいごとです。そもそも金融包摂は本来、政府の仕事です。私企業たるFacebookの義務でもなんでもありません。

 

Facebookはビジネスとしてリブラを開発しています。利益が上がらないモデルなど作りません。私企業なのですから。

 

リブラが当初、コンソーシアム型のブロックチェーンとして設計されました。5年後にはパブリック型のそれに移行する計画となっていますが、これも、あくまで「計画」であって、儲かっているのなら、そのビジネスモデルを変更するはずもありません。したがって、ホワイトペーパーの5年後というのも眉唾です。ただ、Facebookが儲からない、コストがかかり過ぎると判断すれば、即座に開放するでしょう。事業としては失敗です。事実、Facebookはその引当金を積んでいます。彼らも伸るか反るか、リスクを取っているということです。

 

ついでに。協会メンバーは100社ですが、これは運用益を受ける可能性のある会社の総数であって、各社の収益配分割合を示しているわけではありません。運用益の配分方法は不明です。出資と切り離されています(だから出資に対する配当ではないのです)。もしかするとFacebookが半分かもしれません。先述した各社20億ドルというのは、タラレバの目算に過ぎません。

 

◎リザーブに含まれない中国元

 

リザーブの運用先通貨ですが、ドル、円、ユーロ等となっています。中国元が入っていません。これがリブラを特徴づけています。つまり、アンチ・アリペイ、テンセントなのです。アリペイ、テンセントによる世界的な決済の独占を許さないという思惑があります。リブラが世界通貨を目指すなら中国元を入れるべきでしょう。しかし、当面、「敵対」というスタンスを取りました。

 

Facebookが中国をどう意識しているか、「敵対」の証拠はありません。しかし、このリザーブから見る限り「敵対」です。おそらくG7が悩むのは、この点でしょう。対中国包囲戦略というセンスならば、リブラを育てるというスタンスになります。しかし、G7の政府すら裏切るというのなら、リブラを規制することになるでしょう。リブラを規制すれば、アリペイ、テンセントの膨張を防ぐことはできません(勿論、リブラ以外にも手段はありますので、リブラが絶対に必要という訳ではありません)。

 

中国決済システムが世界システムになれば、決済の流れをほとんど把握されることになります。多分、安全保障上の障害になる、あるいはテーマになることは間違いありません。とくにアメリカの悩みは深いでしょう。

 

なお、リザーブが法定通貨で設計されているので、永遠に準通貨と考えている人が多いと思います。しかし、Facebookは永遠と約束しているわけではありません。リザーブに株式を入れてもいいのです。仮にFacebookの株式を入れたほうが、リブラの安定、信用力が高まることもあり得ます。そのときのFacebookの株価が一体いくらになるのか、想像もつきません。