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地銀の包括提携という名の統合・カルテル

地銀同士の業務提携が進んでいる。従来の提携とは一線を画し、「包括提携」を締結する動きが活発である。包括提携の中身はそれぞれのケースで異なるが、実態は、提携による「競合回避」の色彩が強い。公取の眼をそらすという意図があるのかもしれない。

◎青森銀行とみちのく銀行の預貸シェアは7割に

 

 10月28日に公表された青森銀行とみちのく銀行の「包括連携」には、驚きを隠せませんでした。まず、両行合計の預貸の青森県内シェアは7割とあの長崎県の地銀統合に匹敵するものだからです。もし、このまま統合を目指すのなら、公取は黙っていないはずです。ただ、来年成立が予定されている独禁法適用除外の特例法を適用して統合・合併は可能です。

 

 しかし、特例法をまたずに包括提携したということは、そこに何らかの戦略があるはずです。結論から言えば、包括提携は、事実上のカルテルを意図しているのではないかということです。これも仮の話ですが、長崎の親和と十八銀行も包括提携だったならば、公取はなかなかNOとは言えなかったと思われます。事実としてのカルテルはまだ存在しないからです。青森とみちのく銀行の公表文は、「引き続き健全な競争関係を維持しつつ」と、このあたりを十分意識して書かれています。

 

 発表によれば、「ATMを相互に無料で利用できるようにするほか、預金業務に関する書類を共用したり、バックオフィス業務を共通化したりする。これまで共同開催してきた商談会についてもお互いのネットワークを提供し合うことで取引先支援を拡大する。」となっています。

 

 提携の狙いは、当面は物件費の削減にあるようです。しかし、「お互いのネットワークを提供し合うことで取引先支援を拡大する」はどう解釈すべきでしょうか。すでに両行は地元企業のビジネスマッチング事業などで協力関係にあります。それを、さらに提携して深化させていこうというものです。取引先企業の紹介に止まらず、いわば両行が一体となって、特定の企業を支援するということです。もはや競合している場合ではないという判断が含まれます。競合を回避して、提携するというのは、カルテルと紙一重です。

 

◎福井銀行と福邦銀行の包括提携は準統合

 

 福井銀行と福邦銀行は9月13日、資本提携も含めた包括連携の検討を開始すると発表しました。連携内容は?取引先の経営課題解決など法人向け支援、②事業承継や事業再生支援、③まちづくりや地域活性化への協働、④効率的業務運営へ向けた事務の共同化、⑤店舗集約による顧客利便性の補完となっています。

 

 「店舗集約による顧客利便性の補完」、つまり店舗の統廃合ですから、限りなく統合に近い包括提携です。資本提携も展望していますので、準統合と言って差し支えないと思われます。ただし、システムの共同化は「検討中」とのこと。青森・みつのく銀行よりも一歩進んでいます。もともと、両行は関係が深いということもあり、準統合には違和感はありません。

 

 また、公取が問題視するようなシェアの問題もありません。

 

◎千葉銀行と横浜銀行の奇妙なパートナー・シップ提携

 

 千葉銀行と横浜銀行が7月10日に公表した提携の意図はどこにあるのでしょうか。首都圏にあり、規模も同じ、収益力もほぼ同じです。仮説として考えられるのは、「首都圏案件」では喧嘩をしないという約束を交わしたというものです。いわば休戦協定です。お互いに邪魔をしない。金利競争をしない。千葉が取引しようとしている案件には横浜は手を出さないということです。カルテルのような気がしますが、市場が広いため、カルテルとは言いにくい微妙な提携です。

 

 この提携で奇妙なのは、千葉銀行とコンコルディア・フィナンシャルグループ(横浜銀行+東日本銀行)との提携となっていないことです。つまり、東日本銀行は除外されています。千葉銀行は東日本銀行の取引先を浸食してもいいのかどうか。この答がありません。多分、競合を想定していないためだと考えられます。だから、提携の主体から外したのだと思われます。これも仮説です。そうした説明がありませんので、いまのところ仮説としておきます。

 

 最近の3つのケースを取り上げましたが、今後とも包括提携という名前の統合やカルテル的提携が増えると予想されます。合併・統合のほうが、はた目にはすっきりみえますが、統合は人事制度の調整、年金など、手が付けられない問題を抱えます。しかも、面子の問題もありますから、新銀行名も大変です。それならば、独立したまま、仕事の共同化と調整を図ったほうが、よほど効率的です。

 

 システムの統合はもっと大変です。ならば、当面は包括的提携が進んでいくものと思われます。