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全銀ネット手数料・参加問題の帰趨

未来投資会議が6月16日に銀行間手数料(全銀ネット)の引き下げの方向を打ち出した。昨年の秋からの未来投資会議の場で非公式ながら議論となり、先般、4月に公正取引委員会が公表した銀行間手数料調査を受けて、改めて政府としての方針が明確にされた。7月17日に公表される、成長戦略いわゆる骨太の方針に盛り込まれる見込み。全銀ネット手数料の引下げによって銀行振込手数料の引き下げを誘導し、さらにキャッシュレス事業者の全銀ネットへの接続を検討することとしている。1年後にはなんらかの結論が出される情勢となった。この全銀ネット手数料・参加問題の影響について考えたい。

◎関係者の損得勘定とコスト

 

キャッシュレス事業者=資金移動業者=ノンバンク(以下、ここではノンバンクとします)のAPI接続問題を契機に突如として焦点となったのが、全銀ネット手数料でした。ノンバンクがスマホを使った決済サービスを展開しようとしたときに、どうしても振込手数料の高さが邪魔になります。利用者はスマホサービスは無料だと認識しているため、ノンバンクの営業努力だけでは、限界があります。一昨年以来、銀行とのAPI接続問題でノンバンクとの契約が進捗していないのは、こうしたコスト面での制約が大きかったからといえるでしょう。

 

現状の他行向けの振込手数料は、1件3万円未満の場合、仮に利用者が300円負担しているとすると、その内訳として仕向銀行側が183円(振込手数料の水準によって決定される)、被仕向銀行側が117円受け取っていることになります。ただし、全銀ネットのシステムを動かしているNTTデータの経費7円程度がこれに含まれます。

 

ノンバンク側の要求、あるいは説得に押されて、あるいは未来投資会議=政府、そして公取も納得したのでしょう。高いと。

 

全銀ネットでは、仕向と被仕向の金額を相殺して、支払い超の銀行に手数料を払います。ざっくり言えば、大手銀行が中小金融機関に手数料を払い、中小金融機関がそれを収益としています。大手銀行の年間支払い額は300億円。一方、地銀は100億円、第2地銀40憶円、信用金庫50憶円の受け取りとなっています。ただし、銀行の振込にともなうコストは、まったくわかりません。

 

全銀ネットの1件当たりの運用コストは7円程度ですが、当然、全銀ネットだけでなく銀行のシステムの償却費も考えなければなりません。メンテナンスの費用も掛かります。そして何よりも本人確認・マネロン対策の手間です。マネロン規制とその対策に銀行は非常に大きな費用をかけています。この振込は不正取引によるものではないのか、暴力団に流れる資金ではないのか。振込詐欺対策もあります。

 

これに加え、現下の超低金利も影響します。振り込まれた預金には当然、預金保険料が掛かります。さらに運用難ですので、運用先がないためそのまま放置しておけば、マイナス金利が適用される可能性もあります。被仕向・受け取り側のコストは、この全銀システムが稼働し始めた時と随分と変わっているのです。当時は想定していなかったコストがかかっています。

 

諸々を計算するとなると銀行側のコスト計算はなかなか難しいと思われます(公取も算出することができませんでした)。それに利益も載せなければなりません。4月に公表された公正取引委員会の調査報告では、銀行のコストを公開しろと迫っています。未来投資会議でも同様です。しかし、これは想像ですが、極めて個別性の強い状況になっている可能性があります。もし、まともにコストを勘案して手数料を決めるというのなら、一律の引き下げということにはならないではないかと思われます。

 

A銀行は100円、B銀行は95円、C銀行は105円、D信金は300円・・・・。仕向と被仕向の組み合わせを考えたときに、いったいどのような手数料体系になるのでしょうか。厳密なコストを反映した手数料ではなく、どこかでエイヤーの一本化か、あるいは後述しますが、預金口座管理手数料を徴求するということが合理的な判断となりそうです。

 

銀行にしてみれば、収入(あるいは支出)なので、それが減るのなら見合いの収入を考えなければなりません。未来投資会議が政府の責任で根拠を示しながら振込手数料を引き下げ、銀行の収益を侵食するような水準となるのなら、その見合いの手数料を追認してもよいのではないかと思います。これも個別性の強い手数料になりますので、どうなるか見当もつきません。支払いが減少する大手銀行にしてみれば、たとえば口座維持手数料創設の根拠にはなりにくいかもしれません。逆に中小金融機関のほうに口座維持手数料を設ける口実となるかもしれません。

 

なお、お節介ながら。この手数料引き下げが、地域金融機関の収益圧迫要因となることを忘れてはいけないと思います。下記のように金融庁が動きながら自民党がこの問題を主導してきましたが、地元の地銀の頭取、信用金庫の理事長からクレームが来ることは必至です。政治的な側面があることを忘れてはいけないでしょう。

 

政府側には、収益を圧迫しても、公的資金を入れやすくしたからいいではないかという発想があります(一部ですが)。しかし、公的資金注入と目先の手数料の減収とは別問題です。天秤にかけるテーマではありません。

 

◎ノンバンクの全銀ネット接続問題

 

振込手数料と同時に提案されたのが、ノンバンクの全銀ネットへの接続です。全銀ネットは銀行しか接続していませんが、それに参加させようというものです。もともと民間の企業が作ったシステムにまったく関係のない会社を強制的に参加させろというごり押し的な方針には違和感がありますが、公共性を考えて、一歩引きさがり、参入させるとして、どのような問題が考えられるのでしょうか。

 

最初に動いたのは自民党です。そこに相乗りしたのが金融庁です。もしかすると金融庁が焚きつけたというのが近いかもしれません。昨年、消費税増税対策としてポイント還元が決まった時、金融庁は資金移動業者の送金枠の上限を廃止し、業者を3類型に分けるという資金決済法の改正を準備していました(法案は今年の通常国会で無事通過しました)。ノンバンクの資金決済をよりスムーズにさせ、資金決済法改正の大義を確実にしたいという思いとノンバンクの意向を反映させたいという思いがあったのでしょう。

 

国策であるキャッシュレス化を進めるにあたってノンバンクの活用は必須です。金融庁は、全銀システムへの直接参加、もしくは少額決済に特化した新しいシステム構築とそれへの銀行とノンバンクの相乗りという2案を提示しました。そして今年の3月。自民党の部会で全銀協が次の4つの参加パターンを示しました。

 

① 全銀ネットに直接接続。ただし、全銀ネットは最終的に日銀ネットとリンクして決済しているため、日銀とノンバンクとの取引をどうするかといいう問題をクリアする必要がある。

 

② ノンバンクが特定の銀行に決済を委託して全銀ネットに接続するという方法。ただし、この場合、銀行とノンバンクとの契約において、銀行優位になる可能性がある。

 

③ 新しい少額決済に特化したプラットフォームを別途構築するという方法。これに2案あり、①RTGS(即時決済)とする方法と、②新プラットフォームでの最終尻について全銀ネットに接続して決済するという方法。

 

未来投資会議のたたき台では、「優良なノンバンク」の直接接続が例示されていますので、もしかすると新しいプラットフォーム案は消えているのかもしれません。ただ、妥協案としては、まだ検討の余地がありそうです。

 

① の直接接続時の日銀取引問題とは何か。現在、全銀ネットの決済尻は、さらに日銀ネットで決済されています。日銀の当座預金口座で振り替えられているということです。日銀に当座預金口座がないと全銀ネットの決済もできないということです。では、ノンバンクが日銀当座口座を開設できるでしょうか。

 

ここには、改正日銀法の主旨に関係する大問題があります。日銀法37条では金融機関に対して無担保による一時貸付を定めています(38条は信用秩序の維持のための無担保貸付。いわゆる日銀特融)。この金融機関には、いわゆる銀行のほかに証券会社や短資会社も含まれていますが、それ以外のノンバンクは一切含まれていません。

 

日銀は37条の対象先の財務状態をチェックしたうえで資金を供給します。このため、日ごろのモニタリングが欠かせません。だから考査に入ります。考査はこの37条の対象先に限定されています。ということは、今回、ノンバンクを新たに全銀ネットに参加させるということは、即日銀当座預金口座の開設と考査・モニタリング対象となることを意味します。

 

日銀法は「偶発的な事由により予見し難い支払資金の一時的な不足が生じた場合であって、その不足する支払資金が直ちに確保されなければ当該金融機関等の業務の遂行に著しい支障が生じるおそれがある場合において、金融機関の間における資金決済の円滑の確保を図るために必要があると認めるとき」という条件を付しています。銀行やノンバンクとの間の資金決済に著しい支障が生じたときというのです。

 

ノンバンクに日銀が認めるほどの財務と金融スキルとガバナンスなど銀行に匹敵するほどの良質な経営レベルを有していればよいのです。仮に認めるほどであれば、実は簡単な話なのです。銀行のライセンスを取得すればよいのです。ノンバンクがバンクになればよいのです。そうすれば、この問題は解決します。

 

金融庁の「優良」ノンバンクのイメージは、LINEペイ、楽天ペイなどと言われています。乱立している「〇〇ペイ」は、この6月で終了するポイント還元後の戦略を練り直さねばなりません。加盟店との手数料問題は深刻でしょう。加盟店開拓も想定以下だったと聞いています。加盟店側もキャンペーン終了で「ペイ」の利用が落ち込むとみれば、加盟店手数料を惜しむはずです。辞めるかもしれません。大盤振る舞いのキャンペーンでレッドオーシャンと化したQRコードペイの市場での淘汰が待ち受けています。だからこそ、ノンバンクも生き残りをかけてコストを引き下げたいはずです。そんなぎりぎり経営のノンバンクをどの基準で優良と判断するのか。悩みます。

 

全銀ネットでは5月22日に新たな参加者を検討する会議を開催することを決めました。ただし、検討の結果、事実上、無回答ということも考えられます。システム開発費の負担やKYCは相当ハードルが高く、また、セキュリティの面での問題も少なくありません。すくなくとも小生が日ごろ、見ているQRコード決済現場での事故発生は必至です。たとえばQRコードは簡単にスマホのカメラで遠くからでも読み取ることができます。また偽造も簡単です。こんな事実はシステム関係者にとって常識的です。脆弱なセキュリティの決済と全銀ネットを一緒にするリスクを本当に容認するのでしょうか。全銀ネットから、ひいては日銀ネットまでリスクの汚染が広がる可能性があります。悩みます。

 

◎今後の展開見通し

 

さて、今後の展開の見通しですが、先述したように1年間程度かけて関係者間で検討することになると思われます。手数料の引き下げについては、①半分、あるいは3分の1にする(今後、1年かけて各金融機関が計算する経費次第です)。②ノンバンク向けだけディスカウントする。③(前出の)新プラットフォームを低コスト(たとえばクラウド)で構築する。ただし、サービスレベルは全銀ネットの送金のみ(情報伝達は除く)。④小口決済を無料にする。ただし、口座維持手数料導入を前提とする(未来投資会議のたたき台でも付言しています)、等々が考えられます。

 

なお、全銀ネット手数料を引き下げたとしても、振込手数料がその分だけ引き下がることにはならないことに留意すべきです。一律に下げたらそれこそカルテル行為になりますし、個別の要因が大きく働くからです。

 

極端なことを言えば、小切手の振出と同じ水準にしてもかまわないのです。公取の4月の調査報告書も未来投資会議のたたき台も海外との比較を載せています。日本は高いと。しかし、送金・決済環境が異なれば手数料も違います。この比較はほとんど意味がなかったといえます。アメリカのパーソナルチェックは、一枚、100円程度でしょうか。当然、口座管理維持手数料が付随します(しない銀行もありますし、契約次第でもあります)。トータルで費用を考えないと比較しても如何なものかと思いました。

 

全銀ネットの1件当たり送金額は170万円程度です。意外と金額は大きいのです。とすれば、リスク遮断の観点からも、前述したように未来投資会議は新プラットフォームの構築を諦めたようにも見えますが、別の少額送金システムを構築するというアイディアはありだと考えます。全銀ネット直接接続は、時間もかかりそうですし、小生は事実上、ペンディングとみています(この点は小生の感想です)。

 

◎コロナ対策として

 

キャッスレス化については、コロナ騒ぎというフォローの風が吹いています。政府、あるいは自治体の様々な給付金がスムーズに送金できないというトラブルが続いています。来年の通常国会では、マイナンバーとひとつの預金口座の紐づけるという法案が出る可能性があります。

 

それもありでしょう。ただ、○○ペイを使って、QRコードをかざすだけで受給できるというシステムも簡単に構築できそうです。全銀ネットにリンクする新たなプラットフォームで十分対応できそうです。たかだか10万円ならQRコードでもいいような気がします。

 

ある霞が関の関係者は「自民党も金融庁もコロナを契機に狙いが変わりつつある」と解説してくれました。政府からの給付金を政府が新しいシステムを構築して配布することを考えていたようですが、民間のプラットフォームを通じて送金できないかという問題意識へと変わったというのです。これは正しい方向感だと思います。