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ヒトの限界-生存を懸けたCOP15の”30by30”

国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)がモントリオールで12月19日、採択した「30by30」の本質について考えてみました。環境問題を超えた画期的な大きな枠組みですが、ヒトの生存地域の限定という意味も持ちます。ローマ・クラブの「成長の限界」報告書が公表されて半世紀が経ちました。ヒトの生存場所を限定する試みは、ひとつの答えを見いだしたといえるのではないでしょうか。

○ヒトの生きていく場所を制約する「30by30」

 

 ローマ・クラブが「成長の限界」を公表して半世紀。資源の枯渇,汚染の広がりによって「100年以内,おそらく 50年以内に成長の限界に達し,この地球に破滅的結果をもたらす」と警告しました。この報告書の予言(見通し)は残念ながら的中したようです。

 

 この警告に対し、最近、人類=ヒトが出した答えが注目されています。“30by30”(サーティ・バイ・サーティ)。これは国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が採択したもので、2030年までに地球の陸と海の30%以上を自然環境エリアとして保全することを目標としています。

 

 簡単に言えば、地球の野生生物の居場所を3割確保し、残りの7割の地面でヒトは生きていきなさいという国際条約です。環境保護だ、絶命危惧種の保全地域の確保だと近視眼的に考えてはいけないテーマだと思います。これは逆にヒトの生存地域を限定したと考えてみるべきでしょう(政治的には使い難い言葉ですが)。

 

 地球上に見えない保護柵が張り巡らされ、あっち側とこっち側ができます。一見、保護柵は、野生生物のために設けられたように見えますが、ヒトが食い荒らす土地の制約でもあります。気温上昇を今後1.5度までにしようという温暖化抑止目標よりも、さらに厳しいものです。これほどヒトの行動を限定した条約はありません。ヒトは、ある局面での飢餓を容認し、自ら檻の中に入ったのです。

 

 国連は2022年11月に地球の人口が80億人に達したと公表しました。一方、今後、柵の出入り口はどんどん閉められていきます。となれば溢れるヒトが出てきます。残された土地でのサバイバルが本格化します。表現はきつくなりますが、30by30は冷酷なジェノサイドという側面をもっているのです。

 

 そんな見方はバイアスがかかりすぎている-と批判されならば、限界のグローバルな共通認識の成立と穏当な表現に変えてもいいのですが、どうも成長の限界に対する危機感としては迫力不足です。今年、ヒトの知恵は一歩踏み込んだと評価したいと思います。

 

○新自由主義経済理論の終焉

 

 成長の限界に対する答えは、それこそ沢山ありますが、思想的な変化からピックアップするとすれば、新自由主義経済理論(思想)の放棄と終焉が挙げられます。これは今年に入って決定的になったというものではなく、ここ数年の総括として定着したものです。新自由主義は1980年代に登場した考え方で、徹底した規制緩和と市場原理主義をベースにした経済思想です。これにより自由な資本移動によるグローバル資本主義が定着しました。

 

 それまでの国家による富の再分配を主張する自由主義や社会民主主義的な考え方のアンチテーゼとして圧倒的な支持を得ていましたが、新自由主義によって期待された“トリクルダウン”も起きず、否定的な論調が優勢になってきました。そして、象徴的であり、決定的であったのが米中衝突でした。中国にいいとこ取りされた米国が対中戦略を転換し、グローバル資本主義という思想は消えました。世界は分断されました。

 

 この世界では今後、貿易は規制され、資本も規制されます。知財は閉ざされ、その結果、世界のGDPは減少に向かって行きます。GDPの減少は人口抑制につながります。つまり、これもまた成長の限界への答えなのです。新自由主義の否定が答えなのです。

 

 新自由主義は非正規雇用を増やしただけでなく、生産性の低下について労働者に責任転嫁しました。しかし、その結果、格差社会を拡大し、80億人の生存を確保(あるいは抑制)するには、資本に富を与えるのではなく、労働者に富を与えなくてはいけません。資本を優先する新自由主義は、修正を迫られています。

 

 最近、若い人たちがマルクスの資本論に興味をもっているというのもうなずけます。斎藤幸平の「人新世の資本論」も新自由主義を否定します。世界は完全に転換点を超えました。

 

 概念的でしたので、もう少し金融面だけに絞って考えてみましょう。規制強化によって富の配分を調整するという自由主義的(あるいは社会民主的)政策が支配的になれば、いずれ為替・金利の規制が始まるかもしれません。いまの日本の金利はすでに事実上、完全規制金利です。為替は規制できませんが、中国が再規制すれば、事実上、円の相場規制もないとは言えなくなるでしょう。世界はRe-regulationの世紀に入ります。

 

(ここから、オマケの次期日銀総裁人事予想)

 閑話休題。日本の硬直的な金利に触れましたので、ここで金融の話題をひとつ。

 

 いま、黒田総裁が代われば金利が上昇するといった見方が広がっています。しかし、それは幻想とはいいませんが、あり得ません。日銀の金融緩和政策はいまの財政と自民党政治を支えています。後任が誰になっても緩和基調は変えようがありません。日銀が独立していると考えている方もいると思いますが、残念ながら、それこそ幻想です。

 

 黒田総裁が代われば金利上昇―円安からの脱出と考えているのは市場関係者だけでなく、「自民党内議員もほとんどすべて」(関係者)という状況です。となると後任は“非黒田”人脈となります。リフレ派も排除されます(といってももう存在しませんが)。ここには黒田総裁の部下であった元副総裁の中曽氏、雨宮副総裁も含まれます。メディアはこのお二人を後任候補として書き立てていますが、空気は明らかに違うと思わざるをえません。

 

 この黒田総裁時代に一貫して反黒田を旗幟鮮明にした人物がいます。そのなかでもとびぬけた度胸と知識をもつのは元日銀副総裁の山口広秀氏(日興リサーチセンター理事長・GPIF経営委員長)です。

 

 かつて福井総裁が量的緩和(当座預金調整)を(実際には金融緩和ではないのに)金融緩和だと市場に思い込ませて為替相場を誘導したように、円安(つまり低金利継続)を日本経済の実態を表し、当然の相場であるような説明ができる人物を探すとなると山口氏しかいないように思います。

 

 ―これは一個人の予想と期待ですから、とくに情報源があるわけではありません。山口氏ならば金融緩和を堂々と継続しつつ、少し目先を変えていく手腕が期待できます。あえて根拠を書くならば、最近の宏池会と日銀OB人脈の接近です。岸田首相の経済ブレーンとして動いている気配があります。

 

 女性登用で翁百合・日本総研理事長という声も聞こえますが、大きな組織を動かした経験がないというハンディが重いと思います。副総裁ならば・・・。

 

 総裁人事は来年の国会が始まる1月27日の直後から2月の初めに公表されるでしょう。決めるのは自民党の岸田首相の宏池会人脈。安倍派の切り崩しという思惑も背景にあります。もちろん、麻生派の了承は必要条件になります。


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コメント: 1
  • #1

    菊本尚孝 (土曜日, 31 12月 2022 20:36)

    全面的に賛成です。久し振りに良い投稿を拝見しました。