2022年度金融庁・財務省人事異動評ー次期長官の絞り込みと波乱の官房長人事

財務省、金融庁は6月24日、定例の幹部人事異動を行った。中島金融庁長官は留任、財務省は矢野次官が退任、茶谷主計局長が昇格した。いずれも既定路線のトップ人事だった。「60歳定年の天井」を意識した人事となりつつあり、財務省も金融庁も足早の異動が目立つようになっている。金融庁では伊藤豊監督局長、財務省では青木官房長人事が注目される。

<金融庁>

◎中島長官の続投と次期長官の絞り込み

 

 中島淳一長官(60年)の続投は昨年、長官に就任したときからのほぼ予定通りの人事だったというのが、大方の見方です。61年の古澤知之市場企画局長を昇格させるという人事構想があれば別ですが、市場企画局長は次の局長ポストが見えない場合、ほぼ“上がりポスト”ですので、この構想は消えていたと思われます。

 

 ただ、長官の続投というのは一般的ではなく、基本は退任です。内閣人事局が発足したあとも、長官(次官クラス)は、任期の終わりが見えてきた時点で担当の大臣に辞任の意向を伝え、大臣がそれを受け取るかどうかという形式的な儀式があります。そのとき本人の続投の意向がない限り、続投はありません。今回は中島長官にはその意向があったということです。

 

 続投の理由として、通常は政策テーマの継続案件や新規テーマの立ち上げなどを挙げることが多いのではないかと思います(官邸との関係もあります)。今回何をテーマとしたのか、判然としませんが、少なくとも必須の「中島案件」があったようには見えません。政策テーマはさておき、「金融庁内部マネジメントが優先された」(関係者)のではないかとみられています。(真実はわかりません)

 

 内部管理については、いくつかの理由が挙げられます。なんといっても、“中島後”の円滑な人事、次の長官人事への布石です。61年の古澤氏と栗田氏と62年の松尾元信総合政策局長を退任させ、62年の栗田監督局長を“格上”の総合政策局長に昇格させたことに象徴されます。栗田氏にとって風通しのよい状況となりました。

 

 栗田氏は監督局長を4年間連続して歴任しただけでなく、監督局以外のキャリアがわずかで監督局一筋という極めて異例のキャリアです。政策立案に直接的に関与する、あるいは責任をもつことが少なくもっぱら個別監督行政に携わってきたため、今回、政策形成・立案という経験を積むことができるポストに回り、「長官としての幅を身に着けるチャンスを中島長官が与えた」(同)という見方があります。次期長官の最有力候補となりました。

 

 総括審議官から監督局長に昇格した伊藤豊氏(平成元年)は、財務省から令和元年に金融庁に転じた大物財務官僚です。主税局税制2課長のあと秘書課長を4年。次は主計局次長というのが、常識的なコースです。ところが、金融危機の際、金融庁監督局におり、またその終戦処理のための産業再生機構の立ち上げにかかわるなど厳しい状況下での金融回りのキャリアもあったことと、また、自身が大学2浪、1留ということで3年のアヘッドがありました。「そのまま主計局コースから事務次官を目指すと年齢制限が厳しくなることから、長官含みで金融庁行きを決心した」(同)とのことです。

 

 伊藤氏は実年齢でいえば、61年入省組となります。つまり、古澤氏と同じ、栗田氏よりも1年上ということです。ひと昔前のように定年まで働くということを想定していない時代ならばともかく、いまは60歳定年(公務員定年と局長の定年)の天井を意識した人事となっています。

 

 伊藤氏の任期は厳密に運用されるならば、残り1年9か月(2024年3月末)となります。形式的には、それまでに定年が62歳の次官クラスである長官になる必要があります。仮に来年、留任あるいは、他局の局長に就任するとその任期中に定年を迎えてしまいます。ただ、実際には特例があり、任期中の定年退官はなく、任期を延長することができますので、来年も局長クラスでも定年の上限をクリアすることができます。

 

 つまり、人事を厳密に運用するならば、伊藤氏は来年、長官になってもおかしくないということになります。

 

 あくまで定年問題からの制約を書いただけですので、政策の立案、現下の課題処理(ここでは一切触れていませんが)など本筋の適材適所の人事を優先するならば、栗田長官はほぼ確実と思われます。ただ、栗田総合政策局長のミッションがどうなるのかが注目されます。前総合政策局長の松尾氏のそれは、マネロン、フィンテックと検査でした。官房機能は総括審議官に完全に委譲していました。これと同じだとするとやや権力不足の感が出てきます。常識的には栗田氏ですが、何かあれば伊藤局長が起用されるかもしれません(一応、イクスキュウーズさせていただきます)。

 

 栗田長官1年、そのあと伊藤長官2年でしょう。なお、お二人のほかに長官候補はおりませんが、下記の天谷氏の官邸によるサプライズ起用の確率1%としておきたいと思います。

 

◎女性登用の本格化は平成8年組以降に

 

 人事の円滑化の第2の理由として、女性登用があります。60年入省の中島長官が退任してしまいますと61年の天谷知子金融国際審議官(財務省の財務官と同格で次官クラス)の扱いが難しくなります。同期の古澤氏を出したので、天谷氏も退任の可能性がありました。中島氏が続投ならば、年次からも天谷氏も留任できます。「官邸(内閣人事局)は、女性登用しか見ていない」と言われるほど、女性官僚の地位に配慮しています。

 

 天谷氏が退任となれば、実は幹部となる女性がいません。財務省では木村秀美国税庁調査査察部長(2年・内示不明のため現職表記)が次の幹部候補です。ただ木村氏が金融庁に来る可能性が低いため、金融庁の幹部は当面、不在となります。

 

 金融庁では、財務上級の平成4年に木股英子(証券取引等監視委員会事務局総務課長・内示不明のため現職表記)氏がおりますので、木俣氏を引き上げていくのではないかとみられています。したがって、天谷留任は官邸からも必須の人事だったようです。

 

 肝心の金融庁採用キャリアの女性をみると平12年の中川彩子氏(前監督局証券参事官・内示不明のため現職表記)が最初の幹部最有力候補となりますが、天谷氏とはかなり年次が離れてしまいます。この10年間のブランクを埋めるのは不可能かもしれません。

 

 財務省が女性キャリアを意識的採用し始めたのが平成8年。平成25年まで各期1名から2名採用しています。これが平成26年以降は5名です。金融庁のキャリアもほぼ同じタイミングで5名程度採用しています。ですから、すくなくとも平成8年組以降が幹部になるまで待つしかなさそうです。平成25年頃入省・入庁からはかなり女性幹部が目立つようになるでしょう。内閣人事局もそれまではお待ちをというところでしょう。

 

<財務省>

◎波乱の官房長人事

 

 財務省の矢野康治次官60年から茶谷栄治次官61年へのバトンタッチは既定路線。ほかの幹部人事も無風の予定でしたが、人事異動の直前に起きた小野平八郎前総括審議官(元年)の信じがたい泥酔暴行事件(5月20日未明)によって、官房長人事と理財局長人事が急遽変更されました。「小野氏はすでに次期官房長という内示を受けており、また官房長になった青木孝德主税局審議官(元年)は、理財局長という予定」(関係者)でした。

 

 官房長という重要ポストの就任予定者が幹部人事の異動から外されたため、時間の余裕があるのなら大幅な入れ替えが検討されたと思いますが、内示まで1か月しかなく、すでに財務省の骨格である主計局の人事が固まっており、動かしようがなかったとのことです。

 

 そこで応急処置ということでなるべく影響の出ない人事となり、青木氏を官房長とし、東海財務局長であった齋藤通雄氏(62年)を理財局長に起用しました。

 

 東海財務局長から理財局長になった人事は初めてのことです。そもそも本省局長に異動した人事はありません。従来は、本省に戻るのであれば、審議官、局次長、ほかの地方局長、あるいは預保や政府系金融機関などに出向というパターンです。如何に特異であったということの証左でしょう。一部の新聞報道にもありましたように齋藤局長のそれまでの理財局でのキャリアが評価されたという面もあります。

 

 官房長人事に関しては、昨年このコラムで「元年入省同期の小野平八郎氏の大臣官房総括審議官と宇波弘貴主計局次長の留任くらいのものではなかったかと思います。太田前事務次官が最も信頼していた宇波氏が総括審議官になると見られていました。」と書きました。これは間違いでした。まさか宇波氏が岸田総理秘書官になるとは知りませんでした。

 

 岸田内閣発足時に首席秘書官となった嶋田隆氏(元経産事務次官57年)が宇波氏の厚労関係の厚い人脈を頼んでの人事でした。宇波氏は厚労省とのつながりだけでなく、厚労主計官時代からの日本医師会とのパイプも太い方です。財務省からすでに中山秘書官(4年)を送り込んでいますので、この結果、財務省からは二人秘書官を送り込むことになりました。これまでにないことです。

 

 今年は宇波氏の官房長説もありました。岸田総理が打ち上げた大きな厚労省改革である「こども家庭庁」の設置と「感染症危機管理庁」の新設という実績を上げていますので、本省に戻るという選択もあったはずです。しかし、そこは官邸側が離さなかったということです。後者の感染症危機管理庁の設置は決まったものの、法案ができていないという事情もあります。ほかにも岸田総理が必要としている理由もあるのかもしれません。宇波官房長説が消えて矢野次官お気に入りの小野氏となったわけですが、まさかの事態となりました。

 

 なお、小野事件については、理解できないことがあります。なぜ、深夜なのにタクシーを使わなかったのか、最初に報道したのがTBSだけだったのか(察回りの記者ならば当然知っているはずなのに他社は報道していない)、被害届は出さない意向だったのに、警察に促されて被害届をだしたこと、いまだに示談が進んでいないこと(これは実際のところわかりません。終わっているかもしれません。未決着ということもあり得ます)等々。普通、酔っぱらいの暴行ならば、示談でおわり、不起訴です。まあ、それにしても官房長の椅子を失った代償はあまりにも大き過ぎました。

 


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2022年のバタフライ効果

新年にあたり、中期的な社会・経済・金融動向の見通しをバタフライ効果のフィルターで描いてみることも面白いかもしれません。たとえば、「慶応病院に名医がいたから、国債発行の歯止めがかからなくなった」と・・・。

◎慶応病院の処方箋

 

 新年にあたり、中期的な社会・経済・金融動向の見通しをバタフライ効果のフィルターで描いてみることも面白いかもしれません。たとえば、「慶応病院に名医がいたから、国債発行の歯止めがかからなくなった」と・・・。

 

 安倍元総理の慶応病院の主治医H先生は消化器系の名医ですが、総理の処方箋で気分をハイにする成分を少し入れたそうです。それが2017年の森友問題についての国会答弁「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」の強気発言につながりました(当時の関係者からの取材による)。

 

 この答弁がなかりせば、①佐川財務相理財局長が主導したとされる文書改ざん問題は起きず、国会の混乱はなく、②財政規律に厳しい財務省の発言権が低下することなく、③アベノミクス初期の黒田バズーカだけで追加的な金融緩和政策はなく、④翌年の日銀総裁人事も異例の黒田氏続投に拘泥することなく常識的な人事となる・・と、まあ連続して歴史は変わっていきます。

 

 こうしたささいな均衡を破るような事象が世の中に蔓延していていると考えると変化への対応も柔軟になります。コロナまみれの中から、ほんの数匹、世の中を飛んでいるバタフライとその影響を飛躍させて予測してみました(あくまで空想です)。

 

〇ふるさと納税の拡大→都道府県の解体→都市国家

 

 ふるさと納税が大繁盛しています。東京23区のふるさと納税による地方住民税減収が500億円を超えたとのことです。富裕層が多い世田谷区では3年後に1000億円もの減収になると警戒しています。いわば徴税権の自由化・移行が進んでいるのです。このまま自由化を進めれば自治体制度は崩壊します。サービスの良い自治体に税収が集中します。人口の集中・過疎化は劇的に進み、都市国家体制へと移行します。まあ、中世のブルクでしょうか。

 

 徴税と行政サービスのズレは、ほかにもあります。介護保険です。自治体は自由に価格(介護保険料)を引き上げ、サービスの対象も介護分野以外にもどんどん拡大しています。このままゆけば、年金と介護保険の統一も視野に入るかもしれません。「最高の医療サービスの充実」を謳う自治体も出てくるでしょう。ならば、もう国家権力に残るのは軍事だけかもしれません。

 

〇みずほ銀行システム障害→全銀システムの停止→CBDC

 

 あまりもリアルなので空想の域を超えてリアリティがあり過ぎますが、まあ、ひとつのバタフライでしょう。全銀ネットが消えて日銀ネットに直付けの決済制度につながるかもしれません。そして日銀ネットの決済独占は、CBDC(中央銀行デジタル通貨)を誘引するでしょう。

 

 なお、中国自民元のデジタル通貨は、匿名性を強調していますが、よくよく調べると最終的に人民銀行にすべて把握されることになっています。個人名が特定されるブロックチェーンと考えたほうが無難です。世界のCBDCとは性格が異なります。共産党政権は潰しにかかると思います。

 

〇中国の食糧備蓄→少子高齢化→共産党政権の崩壊

 

 中国は巨大なバタフライなので、その中からひとつ。中国は食糧安保から食糧備蓄を進めていますが、その在庫はわずか1・5年分のみ。中国は一帯一路による植民地化を進めることで自国民の飢えを回避しようとしています。

 

 世界の主要国で突出して食料を輸入に依存しているのは、中国、日本、イギリスの3か国です。そのなかで日本はどう動くのか。人口減少による需要調整がすでにおこなわれています。少子化を憂うことなかれ(と虚勢でも強気でいたいものです)。世界史は、飢えとの闘いの歴史です。中国もいずれ少子化を進めるしかないのです。それは共産党支配の崩壊です。

 

〇眞子さまNY逃避行→憲法改正→新軍事・外交同盟

 

 あまりにも影響が大きすぎて(芸能レポーターの仕事ではありませんが)、ダメージしか思い浮かびません。ひとつ憲法改正の誘引でもあり、そこからさらに飛び立つバタフライの多さは想像を絶します。皇室の存亡。皇室に美男の外国人が入り、そこから新たな外交同盟ができるかもしれません。軍事同盟かも。

 

 もう一つ戸籍法も改正され皇室も民間人と同じになるかもしれません。(繰り返しますが、本気にされないようお願いします)

 

 

 


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2021年度金融庁・財務省人事異動評ー迫る役職定年

財務省、金融庁は7月8日、幹部人事異動を行った。金融庁は氷見野良三長官(昭和58年・1983年大蔵省入省)が1年で退官し、その後任に中島淳一総合政策局長(60年)が着任した。監督局長を経験していない長官が続けて誕生したことになる。また、天谷知子国際総括官(61年)が次官クラスの金融国際審議官に登用されたことが注目される。一方、財務省は矢野康治主計局長(60年)が事務次官に順当に昇格。ほぼ順当の順送り人事となった。

 

◎氷見野長官が1年で退任、後任に中島氏

 

 氷見野長官の退任の背景には、金融庁幹部の定年が迫ってきたことがあるように見えます。金融庁発足当初は、若くして局長、長官になれた金融庁も次第に幹部職員の高齢化が進んでおり、長官と局長の入省年次が接近し、長官を2年、3年と続けていく時間的な余裕がなくなっています。

 

 今年の国会で国家公務員法が改正され、国家公務員の定年延長が決まりました。しかし、幹部職員は依然として、60歳の天井が残りました。今回、「管理職の役職定年制」(管理監督職勤務上限年齢制)という考え方が導入され、その年齢は現在と同じ60歳です。

 

 したがって、61歳、62歳・・65歳の局長は、将来とも存在しないのです。国家公務員として60歳以上になっても勤務できるものの、ポストは管理職未満(係長クラス)にすべて降格し、給与は3割カットされます。さすがに係長として前局長は在籍することはできないでしょう。したがって、局長の定年退職は60歳のままなのです。なお、特例として長官は62歳まで長官として在職することができます。

 

 「今後とも1年で勇退というケースが増えていくのではないか」(霞が関)との声が聞こえます。金融庁だけでなく、事実上の親元である財務省も同じです。なお、長官を1年で勇退するのは細溝氏に次いで二人目。任期2年あるいは3年という常識が定着していたため意外感が残りました。

 

 実は氷見野長官は後任の中島氏の年令を考慮しても、続投することができました。憶測の域を出ていませんが、昨年10月の東証のシステムトラブルが氷見野人事に影響した可能性があります。世界的な株取引市場である東証の終日取引停止という前代未聞の大事件でした。官邸にトラブルの説明に行った長官は総理から相当叱責を受けたと聞いています。

 

 東証の監督責任は金融庁にあります。システムトラブルを未然に防げなかったのか、事後対応策が不十分だったのはなぜか。行政としては大失態となります。信賞必罰が官邸、というより菅総理のモットーですから、この監督責任を問われたという「説」も有力です。

 

 建前上、内閣人事局が人事評価しますが、総理の怒りが優先したと考えるべきでしょう。勿論、真相はわかりません。ただ、市場周りの事実上の監督責任者(東証への業務改善命令発出者)である古澤知之市場企画局長(61年)と栗田照久監督局長(62年)が今年の人事で留任したことと考え合わせると、東証トラブルの責任を取ったということかもしれません。人事は官邸の好悪が強く反映されるので、真相は不明です。

 

 さて、氷見野氏の退任の理由は置いて、後任の新長官の中島氏ですが、新聞メディアは東大の工学部出身ということを人物紹介でクローズアップしていますが、「入省してしまえば、学部無視で皆同じ」(財務省OB)なので、取り立てるような感じはしません。確かに大学が非東大であれば、組織内から陰に陽にストレスがかかりますが、さすがに出身学部はほとんど意味はなくなっていると思います。

 

 中島長官の直近の実績といえば、投信販売の拡大の契機となった信託報酬手数料の引き下げでないかと思います。当時の森長官の強引ともいえる引下げ要請を関係者と詰めて実現させたシュアな手腕が印象に残ります。現在の投信販売の広がりの契機となりました。これは政府の成長戦略のコアとなっていました。

 

 また、今年の氷見野長官が主導した東京市場の国際化について、非居住者の相続税の改正も中島氏の実績ではないでしょうか。淡々として実行していくイメージがあります。ただし、あくまで見えるところでの印象ですので、ほかにも、より大きなテーマでの実績があるとは思います。

 

 長官のキャリアとして、氷見野氏以前までは「監督局長から長官就任」というコースが定着していました。氷見野、そして中島氏と“非監督局長経験者”が続いたという点が今回の人事の最大の特徴といえるかもしれません。

 

 氷見野氏や元長官の森氏は、「政策官庁としての金融庁」という看板を掲げていました。遠藤氏からはそうした発言はあまり耳にしたことがないのですが、個別金融機関の経営の監督ではなく、マクロプルーデンスに重きを置くという方向性はさらに固まってきたように思われます。中島氏の着任はそのイメージを強くするものです。

 

◎天谷金融国際審議官

 

 次に女性登用の流れとはいえ、天谷知子金融国際審議官には驚きました。金融国際審議官は、次官クラスのポストです。天谷氏は昨年、「国際総括官」という新設ポストに就きました。このポストは財務省で言えば、国際局長です。金融国際審議官は財務官に相当します。つまり、分かり易く言えば、国際局長から財務官に昇格したということになります。

 

 天谷氏のイメージといえば、どちらかといえば検査部という感じがあります。しかし、よくよくキャリアを拝見すれば、国際畑というキャリアが昔から続いています。財務省から金融庁に転じたときのポストは、総務企画局の国際課企画官。その後、監督局では国際監督室長、預金保険機構調査部長に転じたときは、いわば国際調査がメイン。金融庁に戻ってからは、証券監視委員会や検査局に在籍されましたが、「国際色」が付いていました。

 

 これまで女性登用で注目された方のなかには、パワハラ問題があったり、とかくトラブルが付いて回ることが多い中で、天谷氏にはそうしたトラブルめいた話題はありません。「大蔵省(財務省)の女性キャリアのなかで、初めて一切、女性というゲタをはかせなかった」とある財務省OBは振り返っていました。従来、女性キャリアは数が少ないということもあり、特別に処遇されてきましたが、斟酌なしだったというのです。とかくマスコミ受けを狙った女性登用が霞が関でも目立ちますが、そうした人事とは一線を画します。

 

 ただ、森田宗男金融国際審議官(60年)の後継者は、キャリアからも天谷氏と同期の白川俊介総括審議官(61年)だと思っていました。その白川氏は関東財務局長に異動。かつて総括審議官から関東財務局長に転じた人事がありましたが、そのとき、ペナルティ色はぬぐえませんでした。すくなくとも長官とのソリが合わなかった感じが残っています。今回もそうしたことがあったのか、なかったのか。同じ局長クラスとはいえ、違和感が残りました。

 

 天谷氏の後継者は、今回の異動で財務省国際局次長の有泉秀氏(63年)が金融庁国際総括官に回りましたので、ほぼ決まりかと思われます。

 

◎検査の復活か?

 

 今回の人事異動で組織編成も大きく動きました。それは総合政策局の組織の拡大とレポーティングラインの明確化です。

 

 まず、総合政策局を官房部門、国際部門、モニタリング部門の3部門制にすることを明確にしました。最大の組織改編は、モニタリング部門の充実です。こまごまと書くと煩雑になるので、象徴的だった検査のスペシャリストである「主任統括検査官と統括検査官」(保険会社担当除く)の人員の動向だけを並べてみます。

 

 2019年(遠藤長官時代)は、たったの5人です。2020年(氷見野長官時代)は、8人。そして、今回、2021年では11人となりました。この3年間、監督局在籍の主任統括検査官と統括検査官の総数は4人と不変ですので、監督局から異動させたわけではありません。遠藤長官時代から見れば、検査官のヘッドが倍増しているのです。

 

 モニタリング部門の拡充の意図は明確です。金融機関の経営危機への対応が念頭にあったと思われます。政策官庁への脱皮の一方、顕在化する可能性のある不良債権問題にも目配せが必要になってきたと判断したのだと思われます。コロナに関連したゼロ金利融資の後始末、それ以前から継続してきた超低金利が反転したときのリスク(マクロプルーデンスですが)が大きいと身構えているようです。なお、定年延長問題も統括検査官を増やした背景になっているかもしれません。

 

 もしかすると金融行政の転換点なのかもしれません。森長官の強烈なヘゲモニーで分離していた監督局と検査局を統合し、オンサイトとオフサイトの一体化を図ったわけですが、将来、なんらかの形で独立させるのかもしれません。ただし、想像の域は超えておりません。

 

 この新たな総合政策局の陣容は、証券監視等委員会の事務局長から転じた松尾元信局長(62年)以下、官房部門の統括である総括審議官(局長クラス)には、伊藤豊監督局審議官(元年)が就任。国際部門統括は有泉秀国際総括官(63年)。モニタリング部門のヘッドは屋敷利紀審議官(日銀移籍・元年)となりました。

 

 伊藤総括審議官は官房に専念するといわれていますので、松尾局長が留任した栗田監督局長と一緒にモニタリングを統括する形です。なお、ご両人は62年入省の同期です。

 

◎来年の長官

 

 仮に中島長官が1年で勇退するのなら、後任は61年の古澤市場企画局長、62年の松尾総合政策局長、栗田監督局長の3人に絞られます。続投なら62年組の二人と元年の伊藤総括審議官が候補です。

 

 局長のような重要ポストは例外規定(公務の運営に著しい支障が生じる場合に管理職として引き続き勤務できる例外規定を設けている)もあり、内閣人事局はある程度、柔軟に運用することができます。したがって、さきほど60歳以上の局長は存在しないと書きましたが、例外は十分あります。

 

 ちなみに、入省年次ごとの局長定年までの任期は、61年が残り2年、62年が3年・・・となっています(大学現役卒・入省のケース)。これに、例外適用を加味すれば、それぞれ1年プラスとなります。例外適用は次に長官に内定しているような場合などが想定されます。

 

◎財務省人事

 

 順当に矢野康治事務次官(60年)となりました。ほかの人事も順当といえるなかで、唯一の波乱は、元年入省同期の小野平八郎氏の大臣官房総括審議官と宇波弘貴主計局次長の留任くらいのものではなかったかと思います。太田前事務次官が最も信頼していた宇波氏が総括審議官になると見られていました。

 


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Never die in Tokyo

金融庁は東京金融市場の国際化を進めるための施策を矢継ぎ早に打ち出している。橋本総理の金融ビッグバン構想から始まり、2016年には小池都知事が国際金融都市構想を公表した。しかし、鍵を握っているファンドマネージャーに関する規制と税制がネックとなり、進捗ははかばかしくなかった。香港市場の凋落の機をとらえ、一気に打開したのが、氷見野金融庁。昨年12月、本来はコロナ感染対策である政府の総合経済対策(菅総理としては初の総合経済対策)にどういう理屈付けをしたのか、「世界に開かれた国際金融センターの実現」という項目をすべり込ませ、税制改正、さらにはファンドマネージャーの在留資格要件も緩和するなどの方針があれよあれよという間に決まった。須らく役所の仕事は危機時に大幅に動き出すが、教科書通りの作戦勝ちだろう。ちなみに氷見野長官が関係者を説得するときに使った殺し文句は「Never die in Tokyo」だった。

 

◎外人たちの囁き―東京で死んではならない

 

 東京金融市場を国際化する最大のポイントは、如何に多くの海外からファンドマネージャーを引っ張り込むかにかかっているといっても過言ではありません。ロンドン然り、香港然り、シンガポール然りです。そのファンドマネージャー達が集まるといつも話題になるのが、東京でのライフプランの悩みだそうです。なかでも結構深刻な話題になっていたのが、相続税課税。「Never die in Tokyo」なのだそうです。

 

 なぜ、東京で死んではならないのか。10年間以上、東京で仕事をしているファンドマネージャーが亡くなると、相続税課税対象が日本の資産だけでなく、妻子のいる本国分の資産まで対象となってしまうからです。人によってもちろん違いますが、毎年、何億円も稼いでいるファンドマネージャー達の本国の資産は相当なものでしょう。

 

 海外の相続税負担は概して日本より低い(甘い)のです。たとえば、アメリカでは相続税の基礎控除額は545万ドルもあります。5億円以上も控除できます。イギリスやフランス、ドイツも相続税はありますが、その税率は日本よりも低めです。もっといえば、世界的に相続税率は低下、あるいは廃止の流れにあります。イタリアやカナダ、シンガポール、オーストラリアには相続税はありません。北欧諸国も相続税を廃止しました。中国やインドも相続税がありません。加えて、イギリス、ドイツ、フランスは、相続税制度を廃止する方向で検討が進んでいるようです。

 

 日本では、最大55%の相続税を払うことになります。こりゃ、たまらんというわけです。この話を聞きつけた氷見野長官が、このキャッチーな言葉に飛びついたと聞きました。センスがいい方です。そして、令和3年税制改正(4月1日施行)では、ファンドマネージャー達の相続税は「勤労等のために日本に居住する外国人について、居住期間にかかわらず、国外財産を相続税の課税対象外とする」となりました。アメリカで蓄えてある資産はお構いなしとなったわけです。

 

 さらに、所得税については、いわゆるキャリード・インタレストが、総合課税(累進税率、最高55%。地方税込み)の対象ではなく、「株式譲渡益等」として分離課税(?律20%)の対象となることが明確化されました。

 

 ファンドマネージャーが個人としてファンドに投資して得た利益分配が大きく、この税の扱いが海外と比べ負担が大きいことがファンドマネージャーのやる気を殺ぎ、東京に来ない理由の一つとなっていました。今回の税制改正で香港やシンガポールにほぼひけをとらない税制となりました(シンガポールの所得税率は最大22%)。

 

◎東京に戻れるのかわからない不安

 

 ファンドマネージャーのもうひとつの懸念は、「東京に戻れるかどうかわからない、長く働けるかどうかわからない」という不安です。東京で働き、本国に帰ったファンドマネージャーが再度、東京で働くとき(あるいは短期滞在から長期滞在への切り替えるとき)、本当に在留資格がとれるのかどうか、わからないというのです。

 

 在留資格については明確なルールがあります。ただ、少し言いにくいのですが、入管の現場では裁量が結構、働いているようです。ならば、ルールで優遇し、はっきりと有為な人材は永住権をとれるとすればよいではないか。いろいろと細かいルールなのですが、ざっくり言えば、法務省がガタガタ文句をいうなら、金融庁が有為な人材だと認めてしまえばいいというわけです。

 

 例えば、日本人がアメリカでファンドマネージャーとして働くときの審査基準(グリーンカード)よりも、アメリカ人が日本で働くことの基準のほうが緩くなると思います。香港との比較をしなければなりませんが、香港は簡単に就労ビザが取れますが、期限は1年。更新が必要です。更新はすべて裁量です。でも日本よりも簡単に更新できるようです。しかし・・・香港自体が沈没しかかっていますので、ここで比較しても意味はないでしょう。

 

◎日本橋兜町に金融庁の新オフィイス

 

 東京金融市場の国際化を阻害してきた理由は3つあるといわれています(実際にはもっともっとありますが)。ひとつが税制、二つ目が在留資格、以上2点は解消しつつあります。そして第3は、当局と英語が通じないということです。

 

 金融庁は、この10年ほどの間に職員の英語力強化を進めてきています(森長官時代から加速したように思います)。加えて海外事業者との接点を集約した「拠点開設サポートデスク」を2017年に開設。さらにこの6月から日本橋兜町に新オフィイスを作り直しました。ビジネスの中心に許認可の拠点を置くのですから、至便というべきでしょう。

 

 いま、外国株投信の残高の増加が顕著です。あれだけ海外投資に慎重であった個人が投信というツールで間違いなく。海外の株式投資に突っ込んでいます。その運用を任されているのが、「外人」のファンドマネージャーです。多くのマネージャーが必要になっています。

 

 大英帝国の遺産を引き継いだロンドンには及ばずとも、中国化・国家管理統制が厳しくなり、中国メインランドにいずれ引き渡される香港の金融仲介業を横取りできるのは、シンガポールか東京くらいのものでしょう。シンガポールとの競争に勝つ確率は50%を超えると思います。たとえば、いずれシンガポールの中国系住民も人民元の決済のなかに埋没します。資本市場の自由化も制約されるとみています。その背景には中国の軍事力の増強があります。平和な時代の産物であるシンガポールが安全な金融都市として生き残る確率は下がり始めるはずです。この見方に反対される方は多く、不愉快に感じる方もいらっしゃるかもしれません。ご容赦下さい。

 

 さて、東京金融市場の国際化は、間違いなく国策である「貯蓄から投資」を推進します。この旗を立てている限り、金融庁にとっては錦の御旗。おそらく、これからも、なんでもありありの施策が展開されるはずです。

 


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頓挫したデジタルマネー賃金

厚労省で検討していた資金移動業者の口座への賃金支払い、いわゆるデジタルマネーによる賃金支払い構想が頓挫した。昨年の政府の成長戦略に盛り込まれたものの、確実な賃金支払いを求める労働側(連合)の反発が強く、予定の今年度末までに実現するという方針を変更ないし中止せざるを得ない状況となった。議論の場となった厚労省の労政審議会では、多くの問題点が労使双方から指摘されており、それぞれ解決の方向性がまったく見えていない。労政審で指摘された項目以外に構想の背後に大きな課題について考えてみたい。

 

◎賃金と少額資金の支払いを同一視していいのか

 

 資金移動業者の口座への賃金支払いの解禁―銀行からの給与振り込みでなく、会社(使用者)が社員(労働者)の資金移動業者の口座に直接、給与を送金するという構想を厚労省(労政審議会)が検討してきました。しかし、約束のタイムリミットであった年度末までに解禁という結論をだすことができませんでした。案の定という感があります。これは昨年の政府の成長戦略において、国家戦略特区構想の目玉のひとつとして、「新たな生活様式」に対応した規制改革の推進という名目で浮上したテーマでした。

 

 かつて、賃金の支払いは現金でしたが、いまや銀行給振が一般的です。その賃金を直接スマホで決済できるようにしようというもので、たとえばQRコードを使い、〇〇Payで決済するとき、銀行口座から一度、スマホに資金を移動させるという手間もかからず、便利なサービスのように思えました。

 

 しかし、ここで素朴な疑問があります。少額支払いと賃金の支払いを同一視していいのかということです。たとえ少額であっても賃金は賃金です。労働の対価です。何かの買い物の決済資金ではありません。労働債権は、たとえば会社更生法において賃金は納期の来ていない税金と同様に最優先で支払われ、抵当権付き債権より優先されます。また、民事再生手続においては未払いの賃金は抵当権付き債権に次ぐもので税金と同じ優先権が認められています。だから、お金の質が違うのです。

 

 また、銀行は厳格な行政の監督下にありますが、資金移動業者は登録業者に過ぎず、送金を保証するシステムが脆弱です(仕組みに説明は割愛します)。最大のポイントは資金移動業者が破たんしたとき、どのように労働者を保護するのか、その制度がないことです。厚労省も昨年の夏、政府の成長戦略に挙がったものの、なかなか腰を上げずにいました。労使ともに反対だったからです。賃金を確実に支払うことは労働行政としても極めて重要なテーマですが、そこが担保されていないと考えていたからです。今回の一連の議論で労使ともにセーフティネットを要求しています。当然のことです。

 

◎デジタル賃金の保険コストの算出が難しい

 

 ところで、デジタル賃金の運営コストは一体どのくらいかかるものなのでしょうか。支払いを厳格にすればするほどコストがかかります。資金移動業者の支払いに銀行または保証会社の保証を付けるという案もあります。さらに保険会社の保険もあります。

 

 その保証や保険料は一体いくらになるのでしょうか。労政審議会では保全のための保証料や保険料の多寡については、まったく議論されていません。ただ、必要だというだけです。およそ制度を新たに作るときは、事前にコストがいくらかかるかをシミュレーションするのは常識です。それがないのです。不思議な話です。

 

 保険会社からみると会社の賃金支払い能力の査定ということになります。銀行の融資審査と同じか、それ以上の審査が必要になります。デューデリを行い、キャッシュフローを見なければなりません。厳密に言えば、毎月の保険料は変動させなければならないでしょうし、その保険料を決めるには時間もかかります。そんな賃金支払い補償保険を引き受ける保険会社は本当にあるのでしょうか。考えただけでも保険料が高くなることが想定されます。

 

 また、保険金の支払いのタイミングもあります。会社が資金ショートして支払い不能となることが判明してから、支払うとしてもどうしても遅れます。給料日に払われることはないでしょう。

 

 資金移動業者は口座からの送金手数料が安いことを強調しています。しかし、保険料込みの価格を提示していません。さらに、滞留資金(労働者が入金された賃金を使い切れず残った場合、口座残高に見合う供託金を積む必要があります)のコストも顕在化する可能性があります。いまは超低金利なので、仮に保険でなく供託した場合、滞留した資金コストは微々たるものでしょう。しかし、ひとたび金利が上昇すれば、そのコストを負担しなければなりません。サービス価格に転嫁しなければなりません。

 

◎会社の経理負担も大きい

 

 ということは、デジタルマネー賃金のコストは、業者が説明するように安いものではないのです。さらに、使用者側のコストも増えるということも見逃せません。これまで銀行に給振データを渡すだけで済みましたが、これを分割して支払わなければなりません。毎月の給料は変動します。変動に応じて支払い指示をだすことになりますが、最悪の場合、銀行口座あるいは資金移動業者口座のいずれか、あるいは両方に不払いが生じるときもありえます。そうしたケースを織り込んで事前にルール作りをすることになりますが、会社の経理部の事務がそれこそ複雑となり、大混乱に陥る可能性があります。

 

 実は会社側の負担も大きいのです。実務面の負担についての議論はあまりなされてきていません。これも解禁ができなかった理由のひとつになっています。コストは最終的に労働者へのしわ寄せとなり、サービスの価格に転嫁されることになるはずです。スマホをもっている労働者はタダでサービスを得ることはできないのです。

 

◎滞留資金の出資法違反対応をどうするか

 

 コストの次は、ルール違反への対応という課題があります。ひとつは、滞留資金について違法となる可能性があるということです。労政審でも当初から議論になっていた点です。

 

 資金移動業者の口座には、多分、滞留資金が貯まります。定期的に入金されるので、おそらく根雪のように積み上がっていくでしょう。そもそも送金のための業者であって、滞留資金を貯めることを法律は想定していません。現実に預り金と同じ性格を帯びれば、出資法違反です(滞留資金にポイントを付けるというキャンペーンを展開しようとした無知な業者もしました)。

 

 何らかのルール(金融庁は資金移動業者の滞留資金についての資金決済法ガイドラインを昨年末に公表済み)で出資法違反を回避するしかありません。このガイドラインがあったとしても多分、違反するケースはごろごろと出てくるでしょう。出資法違反は刑事罰です。金融庁は出資法の解釈について照会があったときに説明する義務がありますが、違反の事実を把握したときは警察や検察などの捜査当局に情報提供するだけです。厚労省が主体となって監督するしかありません。できますか?

 

 この問題は労政審でも整合的な解は示されませんでした。使用者側と労働者側を監督する厚労省だけでは対応不能ですし、およそ複数の官庁にまたがるような監督は機能しません。つまり、デジタルマネー賃金の違法状態のチェックが効かないのです。

 

◎マネロン対策ができるのか

 

 政府の未来投資会議の場でフィンテック協議会が要求したデジタル賃金構想を読むと、本人確認に対する甘い認識とマネロン対策への意識の欠如が露骨です。

 

 まず、前者、「銀行等での口座開設が困難な方でも金融サービスが受けられるようにできることは重要であり、ペイロール・カードやスマートフォンでの決済・送金を提供する資金移動業者が開設する口座への給与の支払を認めることが妥当と考えられる」―趣旨はよく理解できます。しかし、銀行口座すら開設できない人の本人確認をどうするつもりなのでしょうか(銀行が口座新設を認めない人の本人確認です)。

 

 しかも、「他事業者(銀行やクレジットカード会社以外でも)による本人確認手続の結果を確認することで、本人確認やマイナンバーを重ねて提出することは不要としていただきたい」とあります。これは企業グループ内で本人確認を使いまわすことを認めてほしいというものです。

 

 銀行やクレジット会社“以外”での本人確認ですよ。具体的にどうするのか示されていないので、なんともコメントしようがありませんが、銀行やCCの審査なしで、自前で本人確認し、それをグループ内で共有しようということです。こんな甘々なKYCが認められるのでしょうか。本人確認を自ら行わず、銀行に依拠した結果、ドコモ口座事件が起きたことは記憶に新しいところです。

 

 まして、マネロンについては、ノーコメントです。マネロン資金判断、マネロン犯罪データへの照会に銀行は多額のコストをかけてシステムを構築しています。資金移動業者が本当に独自にシステムを構築するのでしょうか。多分、不可です。それほどのコストをかけてしまえばビジネスとして成立しないでしょう。

 

◎そもそも外国人労働者対策

 

 デジタル賃金は、2017年12月に東京都が外国人労働者を念頭に要望していたものです。翌2018年12月にこれが国家戦略特区構想(全国ベース)に引き上げられたという経緯があります。ここで小さなボタンであった構想を大きなボタンにしてしまったことに、つまずきの原因があります。

 

 ある金融庁の幹部氏が「これは外国人向けなんですよ」と解説してくれました。ならば、構想を小さくしてアメリカ型のペイロールか、プリカ程度にすべきではないでしょうか。


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