2020年の金融庁・財務省幹部人事異動評

金融庁と財務省は7月20日付で定期の幹部の人事異動を行った。金融庁では遠藤俊英長官(昭和57年入省)が退官し、後任の新長官に氷見野良三(58・国際金融審議官)氏が昇格した。また、財務省では、岡本薫明財務次官(58)の後任に太田充(58・主計局長)氏が大方の予想通り、就任した。人事異動のポイントを取りまとめておきたい(人柄等の人物像については説明省略させて頂く)。

 

<金融庁>

◎新長官に氷見野氏

 

 氷見野氏の昇格は既定路線でしょう。あるとすれば、遠藤長官の留任しかありませんが、ある金融庁長官OBによれば、年明けの時点ではまだ3年続投説もあったとのこと。官邸、麻生大臣も踏ん切りがついていなかった模様です。

 

 これは、昨年もこのコラムで書きましたが、官邸では氷見野氏は国際派ということになっています。つまり、国内金融機関とのコンタクトが弱いという見方です。永田町でも氷見野氏を親しく知る議員は少ないという評判でした(だからと言って問題があるわけではないのですが)。遠藤長官は金融団体との会合に氷見野氏を同席させるなど“周知”を進めていましたので、後継者と決めていたのは事実です。

 

 氷見野氏のキャリアについては、いろいろなメディアで紹介されていますので省略しますが、あまり知られていない特筆すべきキャリアは、なんといっても現在、FSB・金融安定理事会の監督・規制に関する常任委員会の議長だということです。もちろん、日本人として初のポストです。

 

 FSBのこの委員会はG20の金融規制標準つくりの実働部隊です。世界の金融監督の指針を作り、世界の金融当局間の合意形成を図るという重責を担っています。一般的に知られているような自己資本比率規制だけでなく、今後、ポストコロナ時代の様々な指針作りを誘導していくことになります。

 

 メンバーには各国の中央銀行総裁や財務大臣などトップクラスが並ぶ常任委員会です。ここで議長として選ばれたということは、それだけメンバー国からの信任が厚いという証左ですし、なによりも世界に顔を知られていることになります。

 

 国内の金融監督だけでなく、世界にも目を配るという重責を担っているということを強調しておきたいと思います。話題は少しずれますが、リーマンショックや今回のコロナショックのときに、日本の銀行のドル調達が危ぶまれました。それを乗り切ったのは、日銀と財務省トップレベル(金融庁は確認してませんが)のFRBとの日ごろの付き合い、情報交換がものをいいました。国際的な人的ネットワークは、日本全体のリスクマネジメントとしても極めて重要だということです。中国がそれを意識しているのは、ご承知の通りです。

 

 金融庁長官としての目下の課題はコロナ対策でしょう。たとえば、総額数十兆円に上ると想定される民間金融機関による実質無利子・無担保融資のツケは、いずれ国が保証を履行せざるをえなくなると同時に民間金融機関の貸出信用リスクとして顕現化してきます。モラトリアムのツケは、いつか清算しなければなりません。信用リスクの顕現化のパターンはいくらでも考えられます。

 

 そのとき、氷見野長官がどのようなスタンスで臨むのか、注目したいと思います。日ごろのお話を伺っている印象からすると、意外とドライに処理するのではないかとみています。

 

◎次の長官候補に古澤氏も浮上

 

 局長人事については、60年組の森田宗男総合政策局長が氷見野氏の後任の金融国際審議官となり、同期の中島淳一企画市場局長が総合政策局長となりましたので、この期から長官を選ぶとすれば、中島氏ということがほぼ決まったことになります。中島氏の後任には、古澤知之・証券監視委員会事務局長(61年)が回って来ました。

 

 仮に氷見野氏が1年間で勇退すると、中島氏の後任長官はほぼ決定的でしょう。2年間となると、長官候補に古澤氏が入ってきます。お二人の金融庁でのキャリアを比較すると、「中島氏は監督局の経験がないが、古澤氏は監督局審議官のキャリアがあること、また、幅広いキャリアからすると古澤氏が有力」(金融庁OB)という見方があります。また、「次は中島で決まり」(財務省OB)という声もありました。

 

 森田金融国際審議官はIMFに6年、OECDに3年、またコロンビア大学にも行かれていますので、キャリアからすれば当然の人事だったのかもしれません。なお、将来の後任は、白川俊介総括審議官(61年)。その次は、有泉秀財務省国際局次長(63年)が有力視されています。

 

 栗田照久監督局長(62年)は留任し3年目に入ります。佐藤隆文元金融庁長官が3年間監督局長を務めたことがありますが、それ以来のことです。さすがに来年はほかのポストに移られるのではないかと思いますが、若くしての抜擢人事で監督局長になられたので、あるいはこのまま長官になるということもあるかもしれません。

 

 局長人事ではありませんが、今年は極めて珍しい課長人事がありました。メガバンク担当の監督局銀行一課長の新発田龍史氏(H5)が地銀担当の銀行二課長に転じたことです。前任の島崎征夫氏はH7の入省ですから、まるで順番が逆のような人事です。

 

 大蔵省時代からみても1課長に相応する銀行課長から2課長の中小金融課長に転じた例はありません。格下のポストに、年次も下のポストに転じたことになります。これだけを見れば新発田龍史氏に対するペナルティのように見えますが、実際は、「地銀対応の重視」というメッセージの発信だと思います。

 

 加えて、銀行間振込手数料の引下げ問題を担当していた新発田氏を地銀担当にして説得にかかるという意味もあるかもしれません。手数料問題は、本来ならばこれほど大げさな問題にならないはずでしたが、未来投資会議で安倍総理発言まで引き出された以上、「回答なし」ということにはならなくなりました。今後、検討の過程で水争い的な様相を呈する可能性もあります。政治的な判断も必要です。

 

<財務省>

◎驚きの矢野主計局長

 

 財務省人事では、大方の予想を裏切って、矢野康治主税局長(60年)が主計局長になったことです。太田主計局長が事務次官になることは既定路線で、その主計局長の後任に次官含みで可部哲生・理財局長(60年)が就任するとみられていました。

 

 それが、可部氏が国税庁長官になったのは、驚きでした。可部主計局長・矢野主税局長留任が省内の常識でした。たとえ、可部氏を次官にする場合にも主税局長から次官になってもなんらおかしくはありません。「官邸人事かもしれないが、麻生大臣が判断したということに驚いた」(省内)とのことです。可部氏と麻生大臣との間に何かあったのかもしれません。

 

 来年の次官人事が注目されますが、本命は矢野。確率は低いものの場合によっては可部氏ということでしょうか。受けに強い人物(猛烈に頭の回転がいい)が必要となれば、可部。

 

 財務省には当面はコロナ対策、とりわけ10兆円の予備費の配分という大問題があります。官邸はこの使いやすさを考えて矢野氏を選択したのかもしれません。矢野氏はポジションから当然のことなのですが、官邸の今井秘書官以下の安倍総理側近との距離が近く、菅官房長官とはいわば因縁の仲です。ただ、官邸と仲がいいだけではマクロ政策運営担当者としての責任もあります。そこをどう折り合いをつけていくのでしょうか。

 

 ある財務省のOBが面白い人物比較を教えてくれました。財務省のマクロ政策へのダメージコントロールが違うというのです。「太田・可部は割り切った対応をする。ダメージコントロールが非常にうまい。コロナ対応でも△100のダメージならば、△50ですぐに折り合いを付けてしまう。その点、矢野は引かないので、原則論的に△0をまず提案する。しかし、結果は△70とか△80になってしまう」。なるほどです。

 

◎“安倍的なもの”との決別

 

 次に驚きだったのは、中江元哉関税局長(59年)の勇退です。2年間も関税局長にあり、次は国税庁長官というコースが想定されていました。総理秘書官経験者が関税局長で退官したことはは聞いたことがありません。まして、中江氏は安倍官房長官のときの秘書官も歴任しています。退官理由はまったく不明です。あるとすれば、麻生財務大臣とそりが合わなかった可能性があります。しかし・・・。それで勇退はあるのでしょうか。

 

 美並義人東京国税局長(59年)の留任も意外でした。60歳の定年を迎えるため、本省の局長にする最後のタイミングだったからです。この留任によって国税庁長官の芽も消えます。

 

 中江氏といい美並氏といい、59年組からは、いわゆる次官クラスの人が一人も出ないことになります。59年には、西田安範前防衛省・防衛審議官がいわゆる次官クラスとなりましたが、本省ではなく、他省庁の次官クラスです。

 

 昔風に言えば、財務省には3冠というポストがあります。次官、財務官、国税庁長官です。少なくとも、このどれかを各入省組に割り振ってきました。59年組はゼロになります。これは戦後で初のことです(財務官は戦後に創設されたポストなので、結局、史上初ということになります)。

 

 武内良樹財務官(58年)の1年間での勇退も意外でした。財務官は数年、務めるということが多かったからです。

 

 中江、美並、武内氏の人事に共通するものがあるように思います。それは安倍総理との決別ということです。“安倍的なもの”の排除です。森友問題はまだ民事訴訟の渦中にあります。財務省はそれを完全に排除したということではないでしょうか。この問題が表面化した前後に美並氏、武内氏とも近畿財務局長でした。また、中江氏は総理秘書官でした。大きな背景としては、安倍政権の終焉を見込んでいるということと、安倍的なものとの決別があったと考えています。


(財務省)    
 事務次官 太田 58 岡本 58
 財務官 岡村 60 武内 58
         
 〈大臣官房〉        
 官房長 (留任)   茶谷 61
 総括審議官 阪田 63 神田 62
 政策立案総括審議官 藤本 61 岡本 60
 副財務官 吉田 4 三村
 秘書課長 (留任)   吉野 5
 文書課長 前田 4 坂本 3
 会計課長 武田 4 木村 2
 地方課長     谷口 2
 総合政策課長 廣光 4 岩元 3
 政策金融課長 4 廣光 4
 信用機構課長 嶋田(兼) 3 井口(兼) 2
         
 〈主計局〉        
 局長 矢野 60 太田 58
 次長 角田 63 阪田 63
 次長 宇波 角田 63
 次長 青木 宇波
 総務課長 中山 4 阿久澤 3
         
 〈主税局〉        
 局長 住澤 63 矢野 60
 審議官 小野 住澤 63
 審議官 江島 2 小野
 国際租税総括官(参事官) 武藤 63 安居 61
 総務課長 田原 4 小宮 3
 〈関税局〉        
 局長 田島 61 中江 59
 審議官 小宮 山名 62
 審議官 源新 63 小宮
 総務課長 (留任)   渡部 4
         
 〈理財局〉        
 局長 大鹿 61 可部 60
 次長 窪田 63 鑓水 62
 次長(国有) 井口 2 富山 62
 審議官 諏訪園 63 窪田 63
 総務課長 湯下 4 嶋田 3
         
 〈国際局〉        
 局長 神田 62 岡村 60
 次長 有泉 63 宮原 61
 審議官 三村 有泉 63
 審議官 (留任)   土谷 2
 総務課長 緒方 4 三好 3
         
 〈財務総合政策研究所〉        
 所長 宮原 61 大鹿 61
 副所長 (留任)   上羅 59
 副所長   長谷川(浩) 59
 副所長 (留任)   高見
         
 総務研究部長 上田(兼) 6 中澤 3
 特別研究官 (留任)   成田 59
 特別研究官 (留任)   久米 62
         
 〈国税庁〉        
 長官 可部 60 星野 58
 次長 鑓水 62 田島 61
 審議官(国際)    小宮 3 武藤 63
 審議官(官房)    木村 2 後藤 63
 〈国税局〉        
 東京国税局長 (留任)   美並 59
 大阪    〃 小原 61 榎本 60
 関東信越 〃     栗原 60
 名古屋  〃 吉井 63 小原 61
 仙台    〃 日置 2 成田 62
 広島    〃 清水 2  
 髙松    〃   松重
 福岡    〃 後藤 63 吉井 63
         
 〈財務局〉        
 関東財務局長 古谷 61 北村 59
 近畿  〃 2 青木
 東海   〃 水口 62 藤本 61
 東北   〃 (留任)   原田 63
 北海道 〃 谷口 2 平井
 九州  〃 (留任)   大津
 北陸  〃 62  
 福岡財務支局長 小原 62 小林 61
         
 〈税関〉        
 東京税関長 榎本 60 松村 58
 大阪  〃 小林 61 中山 60
 横浜  〃 富山 62 中尾 60
 神戸 〃 佐藤 62 大西 60
         
 (金融庁)        
 長官 氷見野 58 遠藤 57
 金融国際審議官 森田 60 氷見野 58
         
 総合政策局        
  総合政策局長 中島 60 森田 60
  国際総括官 (留任)   天谷 61
  総括審議官(官房) (留任)   白川 61
   政策立案総括審議官 井藤 63 松尾 62
   秘書課長 (留任)   柳瀬 4
  総務課長 (留任)   柴田 4
  総合政策課長 岡田 5 田原 2
  参事官(国際) 長岡 3  
  参事官(国際) 三好 3 吉田 4
         
 企画市場局        
   企画市場局長 古澤 61 中島 60
  審議官(開示) 井上 3 油布
  参事官(信用) (留任)   中村(修)
  審議官(市場) 油布 井藤 63
   総務課長   長岡 3
         
 監督局        
  監督局長 (留任)   栗田 62
   審議官 (留任)   伊藤(豊)
   参事官 (留任)   石田 2
   参事官 田原 2 齋藤 2
  総務課長 (留任)   尾﨑 4
         
 証券取引等監視委員会        
事務局長 松尾 62 古澤 61
事務局次長 齋藤 2 水口 62
総務課長 若原 6 武田 4
 

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全銀ネット手数料・参加問題の帰趨

未来投資会議が6月16日に銀行間手数料(全銀ネット)の引き下げの方向を打ち出した。昨年の秋からの未来投資会議の場で非公式ながら議論となり、先般、4月に公正取引委員会が公表した銀行間手数料調査を受けて、改めて政府としての方針が明確にされた。7月17日に公表される、成長戦略いわゆる骨太の方針に盛り込まれる見込み。全銀ネット手数料の引下げによって銀行振込手数料の引き下げを誘導し、さらにキャッシュレス事業者の全銀ネットへの接続を検討することとしている。1年後にはなんらかの結論が出される情勢となった。この全銀ネット手数料・参加問題の影響について考えたい。

◎関係者の損得勘定とコスト

 

キャッシュレス事業者=資金移動業者=ノンバンク(以下、ここではノンバンクとします)のAPI接続問題を契機に突如として焦点となったのが、全銀ネット手数料でした。ノンバンクがスマホを使った決済サービスを展開しようとしたときに、どうしても振込手数料の高さが邪魔になります。利用者はスマホサービスは無料だと認識しているため、ノンバンクの営業努力だけでは、限界があります。一昨年以来、銀行とのAPI接続問題でノンバンクとの契約が進捗していないのは、こうしたコスト面での制約が大きかったからといえるでしょう。

 

現状の他行向けの振込手数料は、1件3万円未満の場合、仮に利用者が300円負担しているとすると、その内訳として仕向銀行側が183円(振込手数料の水準によって決定される)、被仕向銀行側が117円受け取っていることになります。ただし、全銀ネットのシステムを動かしているNTTデータの経費7円程度がこれに含まれます。

 

ノンバンク側の要求、あるいは説得に押されて、あるいは未来投資会議=政府、そして公取も納得したのでしょう。高いと。

 

全銀ネットでは、仕向と被仕向の金額を相殺して、支払い超の銀行に手数料を払います。ざっくり言えば、大手銀行が中小金融機関に手数料を払い、中小金融機関がそれを収益としています。大手銀行の年間支払い額は300億円。一方、地銀は100億円、第2地銀40憶円、信用金庫50憶円の受け取りとなっています。ただし、銀行の振込にともなうコストは、まったくわかりません。

 

全銀ネットの1件当たりの運用コストは7円程度ですが、当然、全銀ネットだけでなく銀行のシステムの償却費も考えなければなりません。メンテナンスの費用も掛かります。そして何よりも本人確認・マネロン対策の手間です。マネロン規制とその対策に銀行は非常に大きな費用をかけています。この振込は不正取引によるものではないのか、暴力団に流れる資金ではないのか。振込詐欺対策もあります。

 

これに加え、現下の超低金利も影響します。振り込まれた預金には当然、預金保険料が掛かります。さらに運用難ですので、運用先がないためそのまま放置しておけば、マイナス金利が適用される可能性もあります。被仕向・受け取り側のコストは、この全銀システムが稼働し始めた時と随分と変わっているのです。当時は想定していなかったコストがかかっています。

 

諸々を計算するとなると銀行側のコスト計算はなかなか難しいと思われます(公取も算出することができませんでした)。それに利益も載せなければなりません。4月に公表された公正取引委員会の調査報告では、銀行のコストを公開しろと迫っています。未来投資会議でも同様です。しかし、これは想像ですが、極めて個別性の強い状況になっている可能性があります。もし、まともにコストを勘案して手数料を決めるというのなら、一律の引き下げということにはならないではないかと思われます。

 

A銀行は100円、B銀行は95円、C銀行は105円、D信金は300円・・・・。仕向と被仕向の組み合わせを考えたときに、いったいどのような手数料体系になるのでしょうか。厳密なコストを反映した手数料ではなく、どこかでエイヤーの一本化か、あるいは後述しますが、預金口座管理手数料を徴求するということが合理的な判断となりそうです。

 

銀行にしてみれば、収入(あるいは支出)なので、それが減るのなら見合いの収入を考えなければなりません。未来投資会議が政府の責任で根拠を示しながら振込手数料を引き下げ、銀行の収益を侵食するような水準となるのなら、その見合いの手数料を追認してもよいのではないかと思います。これも個別性の強い手数料になりますので、どうなるか見当もつきません。支払いが減少する大手銀行にしてみれば、たとえば口座維持手数料創設の根拠にはなりにくいかもしれません。逆に中小金融機関のほうに口座維持手数料を設ける口実となるかもしれません。

 

なお、お節介ながら。この手数料引き下げが、地域金融機関の収益圧迫要因となることを忘れてはいけないと思います。下記のように金融庁が動きながら自民党がこの問題を主導してきましたが、地元の地銀の頭取、信用金庫の理事長からクレームが来ることは必至です。政治的な側面があることを忘れてはいけないでしょう。

 

政府側には、収益を圧迫しても、公的資金を入れやすくしたからいいではないかという発想があります(一部ですが)。しかし、公的資金注入と目先の手数料の減収とは別問題です。天秤にかけるテーマではありません。

 

◎ノンバンクの全銀ネット接続問題

 

振込手数料と同時に提案されたのが、ノンバンクの全銀ネットへの接続です。全銀ネットは銀行しか接続していませんが、それに参加させようというものです。もともと民間の企業が作ったシステムにまったく関係のない会社を強制的に参加させろというごり押し的な方針には違和感がありますが、公共性を考えて、一歩引きさがり、参入させるとして、どのような問題が考えられるのでしょうか。

 

最初に動いたのは自民党です。そこに相乗りしたのが金融庁です。もしかすると金融庁が焚きつけたというのが近いかもしれません。昨年、消費税増税対策としてポイント還元が決まった時、金融庁は資金移動業者の送金枠の上限を廃止し、業者を3類型に分けるという資金決済法の改正を準備していました(法案は今年の通常国会で無事通過しました)。ノンバンクの資金決済をよりスムーズにさせ、資金決済法改正の大義を確実にしたいという思いとノンバンクの意向を反映させたいという思いがあったのでしょう。

 

国策であるキャッシュレス化を進めるにあたってノンバンクの活用は必須です。金融庁は、全銀システムへの直接参加、もしくは少額決済に特化した新しいシステム構築とそれへの銀行とノンバンクの相乗りという2案を提示しました。そして今年の3月。自民党の部会で全銀協が次の4つの参加パターンを示しました。

 

① 全銀ネットに直接接続。ただし、全銀ネットは最終的に日銀ネットとリンクして決済しているため、日銀とノンバンクとの取引をどうするかといいう問題をクリアする必要がある。

 

② ノンバンクが特定の銀行に決済を委託して全銀ネットに接続するという方法。ただし、この場合、銀行とノンバンクとの契約において、銀行優位になる可能性がある。

 

③ 新しい少額決済に特化したプラットフォームを別途構築するという方法。これに2案あり、①RTGS(即時決済)とする方法と、②新プラットフォームでの最終尻について全銀ネットに接続して決済するという方法。

 

未来投資会議のたたき台では、「優良なノンバンク」の直接接続が例示されていますので、もしかすると新しいプラットフォーム案は消えているのかもしれません。ただ、妥協案としては、まだ検討の余地がありそうです。

 

① の直接接続時の日銀取引問題とは何か。現在、全銀ネットの決済尻は、さらに日銀ネットで決済されています。日銀の当座預金口座で振り替えられているということです。日銀に当座預金口座がないと全銀ネットの決済もできないということです。では、ノンバンクが日銀当座口座を開設できるでしょうか。

 

ここには、改正日銀法の主旨に関係する大問題があります。日銀法37条では金融機関に対して無担保による一時貸付を定めています(38条は信用秩序の維持のための無担保貸付。いわゆる日銀特融)。この金融機関には、いわゆる銀行のほかに証券会社や短資会社も含まれていますが、それ以外のノンバンクは一切含まれていません。

 

日銀は37条の対象先の財務状態をチェックしたうえで資金を供給します。このため、日ごろのモニタリングが欠かせません。だから考査に入ります。考査はこの37条の対象先に限定されています。ということは、今回、ノンバンクを新たに全銀ネットに参加させるということは、即日銀当座預金口座の開設と考査・モニタリング対象となることを意味します。

 

日銀法は「偶発的な事由により予見し難い支払資金の一時的な不足が生じた場合であって、その不足する支払資金が直ちに確保されなければ当該金融機関等の業務の遂行に著しい支障が生じるおそれがある場合において、金融機関の間における資金決済の円滑の確保を図るために必要があると認めるとき」という条件を付しています。銀行やノンバンクとの間の資金決済に著しい支障が生じたときというのです。

 

ノンバンクに日銀が認めるほどの財務と金融スキルとガバナンスなど銀行に匹敵するほどの良質な経営レベルを有していればよいのです。仮に認めるほどであれば、実は簡単な話なのです。銀行のライセンスを取得すればよいのです。ノンバンクがバンクになればよいのです。そうすれば、この問題は解決します。

 

金融庁の「優良」ノンバンクのイメージは、LINEペイ、楽天ペイなどと言われています。乱立している「〇〇ペイ」は、この6月で終了するポイント還元後の戦略を練り直さねばなりません。加盟店との手数料問題は深刻でしょう。加盟店開拓も想定以下だったと聞いています。加盟店側もキャンペーン終了で「ペイ」の利用が落ち込むとみれば、加盟店手数料を惜しむはずです。辞めるかもしれません。大盤振る舞いのキャンペーンでレッドオーシャンと化したQRコードペイの市場での淘汰が待ち受けています。だからこそ、ノンバンクも生き残りをかけてコストを引き下げたいはずです。そんなぎりぎり経営のノンバンクをどの基準で優良と判断するのか。悩みます。

 

全銀ネットでは5月22日に新たな参加者を検討する会議を開催することを決めました。ただし、検討の結果、事実上、無回答ということも考えられます。システム開発費の負担やKYCは相当ハードルが高く、また、セキュリティの面での問題も少なくありません。すくなくとも小生が日ごろ、見ているQRコード決済現場での事故発生は必至です。たとえばQRコードは簡単にスマホのカメラで遠くからでも読み取ることができます。また偽造も簡単です。こんな事実はシステム関係者にとって常識的です。脆弱なセキュリティの決済と全銀ネットを一緒にするリスクを本当に容認するのでしょうか。全銀ネットから、ひいては日銀ネットまでリスクの汚染が広がる可能性があります。悩みます。

 

◎今後の展開見通し

 

さて、今後の展開の見通しですが、先述したように1年間程度かけて関係者間で検討することになると思われます。手数料の引き下げについては、①半分、あるいは3分の1にする(今後、1年かけて各金融機関が計算する経費次第です)。②ノンバンク向けだけディスカウントする。③(前出の)新プラットフォームを低コスト(たとえばクラウド)で構築する。ただし、サービスレベルは全銀ネットの送金のみ(情報伝達は除く)。④小口決済を無料にする。ただし、口座維持手数料導入を前提とする(未来投資会議のたたき台でも付言しています)、等々が考えられます。

 

なお、全銀ネット手数料を引き下げたとしても、振込手数料がその分だけ引き下がることにはならないことに留意すべきです。一律に下げたらそれこそカルテル行為になりますし、個別の要因が大きく働くからです。

 

極端なことを言えば、小切手の振出と同じ水準にしてもかまわないのです。公取の4月の調査報告書も未来投資会議のたたき台も海外との比較を載せています。日本は高いと。しかし、送金・決済環境が異なれば手数料も違います。この比較はほとんど意味がなかったといえます。アメリカのパーソナルチェックは、一枚、100円程度でしょうか。当然、口座管理維持手数料が付随します(しない銀行もありますし、契約次第でもあります)。トータルで費用を考えないと比較しても如何なものかと思いました。

 

全銀ネットの1件当たり送金額は170万円程度です。意外と金額は大きいのです。とすれば、リスク遮断の観点からも、前述したように未来投資会議は新プラットフォームの構築を諦めたようにも見えますが、別の少額送金システムを構築するというアイディアはありだと考えます。全銀ネット直接接続は、時間もかかりそうですし、小生は事実上、ペンディングとみています(この点は小生の感想です)。

 

◎コロナ対策として

 

キャッスレス化については、コロナ騒ぎというフォローの風が吹いています。政府、あるいは自治体の様々な給付金がスムーズに送金できないというトラブルが続いています。来年の通常国会では、マイナンバーとひとつの預金口座の紐づけるという法案が出る可能性があります。

 

それもありでしょう。ただ、○○ペイを使って、QRコードをかざすだけで受給できるというシステムも簡単に構築できそうです。全銀ネットにリンクする新たなプラットフォームで十分対応できそうです。たかだか10万円ならQRコードでもいいような気がします。

 

ある霞が関の関係者は「自民党も金融庁もコロナを契機に狙いが変わりつつある」と解説してくれました。政府からの給付金を政府が新しいシステムを構築して配布することを考えていたようですが、民間のプラットフォームを通じて送金できないかという問題意識へと変わったというのです。これは正しい方向感だと思います。


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日銀理事に初の女性登用

日銀は前田栄治理事の任期満了にともない、5月11日に清水季子(ときこ)名古屋支店長を後任理事とする人事を発令した。女性理事は初のこと。この人事の含意とは何か。また、金融庁でも少し前の4月人事だが、天谷知子審議官が局長となったことの含意を併せて考えたい。

◎清水季子名古屋支店長理事

 

 このコラムで昨年秋、清水氏の理事長格は、すでに入行同期年次(1987年・昭和62年)の山田泰弘理事が発令されていることから、実現できないではないかとの見方を紹介しました。それが見事に外れました。当時の確率は5割という日銀内部(日銀OBも)の下馬評だったので「ない」と考えました。すでに、その時点で内定していたのかもしれませんが、察知するに至りませんでした。見通せなかったことの言い訳になってしまいますが、人事担当の雨宮副総裁の気が変わったのか、あるいはコロナ騒ぎも影響したのではないかと―遠吠えさせて頂きます。

 

 背景には女性登用という政府の要請、社会からの要請があったのは間違いありません。女性進出の遅れが指摘され、5年ほど前に政府は女性登用の数値目標を策定するよう政府関係団体・組織に指示しました。もちろん、それ以前から意識して取り組んでいる省庁もありますが、数字で示したのはこのときからです。日銀もその準備に取り組み、清水氏のキャリアを育ててきたものと思います。

 

 実は清水季子氏には局長経験がありません。これまで理事となった方々はすべて局長を経験しています。この点からも異例、特例といった雰囲気があります。理事は一般の会社で言えば、取締役ですから、それ相応の修羅場を踏んだという実績が求められます。しかし、清水氏はおもに海外調査畑を歩んでこられたため、外部からはよく見えませんでした。多分、相応の隠れた実績があったものと推察します。

 

 清水氏の経歴ですが、名古屋支店長の前は、欧州統括役・ロンドン事務所長。それ以前は国際局審議役、国際局参事役、金融機構局上席考査役、高松支店長、ロンドン事務所次長、金融機構局企画役、金融市場局金融市場分析担当総括企画役、金融市場局企画役、金融市場局調査役です。ちなみに金融市場局のときの上司が中曾前副総裁です。

 

 なお、清水氏の次の女性理事候補として、平成3年入行のH氏と平成6年のK氏の名前が挙がっています。つまり、継続して女性理事という体制にはなりそうもありません。この機会に清水氏を抜擢しないと次も遠くなるという配慮もあったのかもしれません。

 

 ところで、理事には担当職務分野が定められていますが、名古屋支店長理事のままということは、考えにくいところです。来年、二人の理事(衛藤・吉岡氏)が退任します。その機会に清水氏は国際担当理事になるのではないかと思われます。

 

 現在、国際担当理事は企画担当の内田眞一理事が兼務しています。コロナ騒ぎで金融関係の国際会議が無くなり、専担の渉外担当者としての国際担当理事不在でもこなせているのかもしれません。しかし、コロナ収束が見えてきて、国際会議が再開されるようになれば、実務担当者の海外出張が必要になります。

 

 衛藤・吉岡理事の後任は、加藤毅企画局長(63年)と高口博英金融機構局長(63年)が有力です。仮にそうした理事の体制となったときに、英語会話能力という点からすると、清水氏、あるいは高口氏が選ばれる可能性が高いのではないかと聞きます。高口氏が国際担当に回れば、清水氏は大阪支店長理事ということになると思われます。

 

◎金融庁の天谷知子審議官が局長待遇に

 

 女性の登用ということでは、金融庁の天谷知子氏(昭和61年入省。1986年)の局長昇格も注目されます。天谷氏は4月1日付で「国際総括官」という新設のポストに就きました。金融庁の内規としての局長ポストということで、予算に裏付けられたポストではありません。しかし、金融庁内部では局長として遇されます。「入省年次と実績を配慮しての人事」(金融庁)とのことです。

 

 天谷氏は旧大蔵省のキャリア出身者で事実上、初の女性局長となります。これまでも地方局長、あるいは準局長である審議官となった方はいますが、本省、あるいは外局(金融庁を外局と表現するのは間違いなのですが、現状、外局的ですのでご容赦を)での局長はいません。画期的なことだと思います。国家公務員の正式な定員枠、職制ではないとしても特筆すべきことだと思います。

 

 天谷氏の上司であった某OB氏によりますと、「男性とまったく同じ待遇で扱ってきて、力を発揮してきた女性。これまで女性登用といってもどこかでなにがしかのアドバンテージを与えてきたが、彼女にはそうした配慮は一切なかった」とのことです。

 

 天谷氏の略歴は、現在兼務の金融庁総合政策局審議官(国際・監督局)となる以前のポストを順に並べますと、監視委事務局次長、検査局審議官、預金保険機構調査部長、東京大学大学院教授、金融庁監視委課徴金開示検査課長、監督局参事官、検査局総務課検査企画官、監督局保険課保険審査室長、財務省関税局総務課補佐、EC代表部一等書記官、銀行局金融市場室補佐、尾道税務署長などとなっています。局長にふさわしいキャリアです。


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コロナ・ウィルス感染拡大と6月の内閣改造

コロナ・ウィルス感染拡大による緊急事態宣言発令が近づいている。今後、少なくとも1か月は、東京・首都圏の活動がほとんど停止すると見込まれ、その経済的な損失は1か月間でオリンピックの個人消費分に相当する。3か月となれば、3倍。GDPで年率1.5%前後のマイナス成長となることが予測されている。経済的なロスに加え、コロナ・ウィルスの感染が政治家まで広がれば、国会の閉会がほぼ決定的。となると、安倍政権は観桜会、森友問題の再燃、議員の選挙違反、検察庁人事等々の懸案を解消するために、内閣改造することが見込まれている。時期は6月。

◎6月の内閣改造

 

 コロナ・ウィルスの感染拡大は止まるところをしりません。最終的には、世界の人口の6割が感染(ワクチン感染を含む)して収束するか、治療薬が開発されてひとの経済活動が自由になるのか、いずれに落ち着くことになります。問題は時間です。これまでの新型インフルエンザを参考にすれば、少なくとも2年間は社会的・経済的な影響が残るはずです。リーマンショックを上回ればより深刻になります。今後開発される新薬が劇的に効果を上げるという楽観的な見方もありますが、まだまだ不透明です。

 

 さて、タレントの志村けん氏が亡くなり、ショックが走りました。いまの最高の医療レベルでも治癒できなかったショックは尾を引くことでしょう。これだけのコロナの広がりとウィルスの毒性に強さからみれば、日本の国会議員への感染も時間の問題と考えるべきでしょう。政治家の感染リスクの高さは、イギリスのジョンソン首相の感染をみれば明白です。

 

 仮に国会議員が感染すれば、いまの国会は即、閉会となります。閉会すれば、すぐに安倍内閣は、コロナ対策を主軸とした布陣を敷くために内閣改造に踏み切るとみられます。オリンピックの延期も決まりましたので、改造を逡巡する理由はありません。安倍総理は来年のオリンピックを花道にして解散するというシナリオが通説です。その解散をさらに有利にするための内閣改造となります。永田町筋では、目玉は若返りとのことです。霞が関の見方も同じです。

 

 この場合、二階幹事長、麻生副総理の引退は確実です。茂木外務大臣、加藤農水大臣、西村経済再生大臣、そして岸田政調会長が次の主役となります。コロナとオリンピックの延期で岸田氏への禅譲シナリオが崩れた現在、かならずしも岸田氏が次の総理となるか、わかりません。岸田氏は次期幹事長として登用されることになると思われますが、その岸田幹事長の下での解散選挙が岸田氏の次のポストを決めるのではないかとみられています。

 

 岸田氏がコケレバ、茂木あるいは加藤という人選もあるかもしれません。なお、菅氏の総理はないでしょう。世代交代が進むとみています。

 

 もうひとつ忘れてはいけないのは、小池東京都知事です。来年の解散の結果次第で、与野党の勢力が変わる可能性があります。小池の再登場も考えられるところです。そして、もう一人。野田元総理です。彼の再登場の可能性もあるのではないかとみています。

 

(以上、あくまで下馬評の予想です。いろいろな政府関係者にお会いした方から伺ったお話からの見通しによるシナリオのひとつです。有力メディアの政治部はもっと詳しく事情を知っていますので、本来は小生の出番ではないのですが、政局の見方の一つとしてこのブログに掲載しておきます。たまには、こんなテーマもよろしいかと)


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地銀の持続可能なビジネスモデルとは何か

金融庁は2月7日、「地域金融機関の経営とガバナンスの向上に資する主要論点(コア・イシュー)」を公表した。その意図は、この論点を金融庁と地域金融機関経営者との「対話」のテーマとし、彼らの持続可能なビジネスモデルの構築を促すというものである。地域金融機関からは、「金融庁から持続可能なビジネスモデルを作れと矢の催促だが、この低金利のなかで、どんなモデルが可能なのか」と半ば開き直りの声も聞こえる。持続可能なビジネスモデルを催促する動きは森前長官時代からのものだが、今回は早期是正措置を改正した上での取り組みだけに、これまで以上の強い圧力がかかる。ビジネスモデルが描けなければ、地域金融機関は合併、業態転換か、あるいは解散の道しか残されない。あるいは別の道があるのか考えてみたい。

 

◎コスト削減戦略の限界

 

 コア・イシューについての地域金融機関の経営者からのコメントはほとんど見かけません。すでに言い尽くされているからでしょう。遠藤長官が長官就任時に掲げた「深度ある対話」も周知されています。対話の成果についての金融庁自身の自己総括は公表されていないものの、継続している以上、成果に確信があるものと推察します。しかし、それが本当に持続的ビジネスモデルの確立につながっているのか、判然としません。

 

 一般的には、持続可能なビジネスモデル対策といえば、まず、経費削減、人件費削減、人員削減、店舗削減といったコスト戦略が中心になります。実際、そうした取り組みは年々徹底されてきています。それでもなお、さらなるビジネスモデルの構築を促すということであれば、その意図するところは解体的なモデルへの転換なのだと思われます。

 

 象徴的な解体的なモデル転換は、いわゆる再編・統合です。これも進んでいます。県を超えた統合も目立ち始めました。金融庁の遠藤長官が最初に口にした「銀行の非上場化」もそのひとつだと思います。単なる上場廃止ということだけでなく、協同組織金融機関への業態転換も意図しているのではないかと思われます。まだ、それぞれ第1号は出ていませんが、上場廃止は東証の上場整理の際に出てくるでしょう。また、信金、信組もいずれ、再編・統合するときの選択肢として現れると考えています(それぞれ収益の外部流出を抑制する手段です)。

 

 ただ、いずれもコスト削減戦略です。縮小均衡戦略です。金融庁は縮小均衡を求めているのでしょうか。ある金融庁幹部は、独禁法の特例法について「そもそも再編・合併は、解ではなく、時間稼ぎに過ぎない。その間にビジネスモデルをどう構築するかが問われている。特例法は、そのために10年間という期間を与えたものだ」と語っていました。つまりコスト削減戦略を取れといっているわけではありません。むしろコスト削減は時間稼ぎに過ぎないと言っています。

 

◎運用業者としての道

 

 では、時間稼ぎではないビジネスモデルとは何でしょうか。まず、過疎化と人口減少が続く限り、店舗の廃止は当然です。お客様のいない店舗は意味がありません。あるいは、単純な窓口業務だけならパートやアルバイト、派遣社員で対応できるでしょう。それでもお客様が来ないのなら、店舗廃止は絶対です。撤退です。お客さまのいない場所でのビジネスはありえません。すでにこうした現象は全国的に広がっています。

 

 問題はコスト削減を終えた、その次の段階です。地域のインフラとして残ろうとしても、いまの銀行業務をコアとしている限り、ビジネスモデルは成立しません。あるとすれば、「お客様から有料で預金を預かる」しかありません。言葉を替えれば、運用者としてビジネスを展開するしかありません。銀行業務の一部だけを担うという考え方です。いわば投資顧問業です。

 

 ここまでは必然でしょう。そして運用者としてのビジネス展開が無理だとすれば、廃業しかありえません。あるいは、ほかの業態への転換です。論理的な帰結と言ってもいいのではないかと思います。

 

 加えて、金融庁が意図しているかどうかは別として、決済の自由化を図っていることも銀行の居場所を狭めています。このインパクトを無視することはできません。

 

◎ファンドとして生き残る

 

 次に、金融機関が別の業態に転換するということは可能でしょうか。地域商社というアイディアがあります。また、不動産業者という選択もあるかもしれません。しかし、いずれにせよ、現有のリソースをそのまま活かすということにはなりません。

 

 小生にアイディアがあるわけではありませんが、投資会社=ファンドになるという選択があるかもしれません。この場合、融資ではなく、出資です。しかし、独禁法の制約があります。この制約を乗り越えるには、銀行であることを止めるか、独禁法の適用除外を求めるしかありません。勿論、銀行免許を返上してファンドになるという道もあります。これならば、独禁法は無関係です。

 

◎コロナ・ショックの追い打ち

 

 以上は、中期的な経営問題ですが、直近の問題への対応も見逃すことはできません。コロナ・ショックは、企業倒産に拍車を掛けます。たとえば、観光関連は、SARS騒ぎをベースにすれば、少なく見ても6~9か月間の急激な売り上げの落ち込みが想定されます。また小売業全体への影響も、これも10%程度の落ち込みは覚悟しなければなりません。小売りの10%は大きな影響です。

 

 このとき、地域金融機関は中小企業を支え切れるでしょうか。NOです。政府保証と公的金融機関の融資がなければ、支えきれないことは、これまでの経験からも自明です。とりわけ疲弊が大きな金融機関、再編でしか生き延びられない金融機関に中小企業は今回のようなコロナ・ショックへの援助を求めることはできません。コロナ・ショックは、期せずして、ビジネスモデルの転換をさらに促進させることになると思われます。

 


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